2013年から、温室効果ガスの吸収源として森林による炭素固定量に加えて、建築物や家具等における木材の炭素固定量が計上されることになりました。また、木材は断熱性や調湿性により省エネ効果を発揮することから、地球環境保全に向けた木材利用への期待が高まっています。
これまで、全国的にCSRとしての「企業の森づくり」や「社有林」の整備が取り組まれていいますが、CSV時代を迎える中で、地球環境保全への貢献とともに、従業員や顧客等の快適環境の形成にも寄与する、オフィスや店舗等における内装や家具等の木質化が拡がっています。
そこで、「企業の森」や「地域の森」を活かして、オフィス・店舗等の木質化を図ることで、多様な主体による豊かな森づくりの裾野を拡げていくために、日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ2014」の同時開催行事としてシンポジウムを開催します。
■ パネルディスカッション
2020年に向かう、新たな森づくり〜林業復活と都市で拡げる木材利用〜
<モデレーター>
高藪 裕三((一社)日本プロジェクト産業協議会 顧問)
<パネリスト>
[建築業界]山梨 知彦 ((株)日建設計 執行役員 設計部門代表)
[林業・木材業界]中島浩一郎 ((一社)日本CLT協会 会長)
[ 産業界 ]赤間 哲 (三井物産(株) 社有林・環境基金室長)
[ 生活者 ]南沢 奈央 (女優、フォレスト・サポーターズ)
[行政関係] 本郷 浩二 (林野庁 森林整備部長)
<講評>
出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
高藪先ほどからこの会場で舞台を見ていたんですが、来賓の方、あるいは基調講演を含めて、私の頭のなかにある、知る限りの、現在の森林問題や林業問題の、ありとあらゆるキーワードがすべて出てしまって、正直、何をしたらよいのか、わからなくなっています(笑)。そんな気分ですが、基調講演をしたお2人、本郷さん含めて、みなさんプロの方がそろっておりますから、せっかくですので、そういう話をぜひお聞きしていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。まずはパネリストの方に2分程度自己紹介をしていただきます。では本郷さんからお願いいます。
本郷林野庁で森林整備部長をしております本郷です。これまで、いろいろなことを仕事でやってきました。ただし、木材の利用や木材産業というところの行政にほとんど携わったことがほとんどなく、いわゆる造林屋と言われている人間です。近年、木材をなんとか使っていこうという機運が高まっており、頑張っていきたいと思っているところではありますが、マーケットを大きくするという観点で先日、非常にショックなことがありました。シンポジウムで福岡に行ったのですが、九州大の先生の報告で、木材でできた部屋と、見た目は木だけどビニールを貼った部屋の両方で、学生にいろいろな作業をさせて比較をしたのだそうです。疲れの回復度合いなどを測ると、明らかに木の部屋の方が体にはいいという結果が出ているのですが、学生たちは「ビニールの部屋の方がいい」と言うのだそうです。木の部屋の何が嫌なのかというと、匂いが嫌だと。こう話す学生は決して1人だけではなく、明らかな有意差があって、ビニールの部屋を選ぶという調査結果が出たということです。マーケットを大きくするということは将来の消費者を増やさなくてはいけないということで、「木育」に取り組んでいる国土緑化推進機構さんや、その他木材関係の団体の方々には、ぜひ頑張って将来の消費者を作っていただきたいと思います。
南沢普段は女優の仕事をしている南沢奈央です。昨年より、フォレストサポーターズに参加させていただいております。私は木の香りがすごく好きで、ドラマの撮影現場にも木で作られたうちわを持参しています。撮影の合間にそれであおぐと、涼しいし、木の香りもして、とても癒されるんですね。そしてこの会場に入った時も「木の香りがするなぁ、落ち着くなぁ」というのをすごく感じました。いまは東京に住んでいて、森を身近に感じる機会は少ないのですが、もともとは埼玉出身ということもあって、木が好きだなという想いはずっと持っていました。その豊かな森や木を守っていくために、私もなにか手助けができたらなと思って、フォレストサポーターズに参加させていただきました。今日は生活者の目線として、未熟ながら意見させていただきます。よろしくお願いします。
山梨日建設計の山梨と申します。図体だけは日本で一番大きい、設計事務所の人間なのですが、職業は建築家、いわゆる建築のデザインをやっています。ビルばかり作っている人間が何で木のイベントに出てきたんだろうと、いぶかしがっている方もいらっしゃると思いますが、後ほどプレゼンテーションをさせていただき、問題提起の中で詳しくその経緯をご説明させていただこうと思います。よろしくお願いします。
中島日本CLT協会の会長をやっています中島です。このCLT協会は、昨年の今頃はまったくの任意団体で、3社で活動していました。今年の4月に一般社団法人化して、会員を募集したところ、びっくりすることにいま現在、160社もの方々に入会いただいています。その顔ぶれも、ゼネコンや住宅メーカー、地域の工務店、製材所、山林関係者、行政関係者と非常に幅広く、そういう意味では、昨年とはまったく世界が変わってきているという状況です。それから仕事としては、製材業を中心に集成材を作っています。熊本と高知でも、関連会社で製材をどんどんやっていこうと。そして「木をまるごと大事に使え」と言いたい想いでいっぱいです。よろしくお願いします。
赤間三井物産環境・社会貢献部社有林・環境基金室というところで日夜、林業・木材産業に取り組んでいる赤間と申します。弊社は、日本全国に約4万4千ヘクタールの森林を保有しています。明治時代から山を保有していて、そこで林業を続けている会社です。昭和40年代くらいまでは、会社の中でもかなりの収益を上げられる部門だったのですが、それ以降はみなさんご存知のとおり、なかなか収益が上げられずに、非常に会社のお荷物だったという時代があります。ところが弊社の場合、社有林・林業は事業部ではなく、環境・社会貢献部というところに置かれています。膨大な森林を、公益的な価値を持つ重要な資産として位置づけており、原則、この社有林は会社が続く限り取り組んでいくんだ、長期に保有するんだという方針のもと、林業を通じて環境保全を実現していくことを標榜しているというわけです。今日はよろしくお願いします。
高藪パネリストのみなさま、ありがとうございました。どうぞよろしくお願いします。お聞きのとおり、プロフェッショナルな方が5名そろっておられます。そのなかにお一人だけフォレストサポーターズということで、5人のなかではちょっと異色の、女優の方がどうしてここにいるのか。みなさん、おそらくその説明を聞きたいと思うので、南沢さん一言お願いできますか。
南沢先ほどもお話しましたように、まず木が好きだという想いがあって、でもそれって何でだろうと考えたところ、私の祖父がずっと大工をやっていたんですね。おじいちゃんの家に遊びに行くと木材がたくさんあったり、夏休みの自由研究で木を使って工作できるという環境が、ごく身近にあったという要因が大きいのではないかと感じます。女優の仕事をしながらも、環境問題や森林にもすごく興味を持っていて、実際、山梨県の森にも見学に行かせていただき、森の現状も目の当たりにしました。そういった状況を見て、知ったことで、より多くの人に森づくりの現場や、森のいまを伝えていきたいという気持ちが強くなり、フォレストサポーターズとして活動させていただいています。
高藪ありがとうございました。ぜひ生活者の立場から、いろいろ語っていただきたいと思います。先ほど申しましたように、ありとあらゆるキーワードが出て、話のネタが切れてしまったような気もするのですが、一応、コーディネーターとして今日は4つのポイントに絞って話を進めさせていただきたいと思います。それが順繰りに出てきますので、もしよろしければメモを取っていただければありがたいです。
まず第1点は、森林・林業に対する関心、あるいは感じる空気についてです。というのも、近頃、林業男子、林業女子といった言葉が、新聞、テレビ等のマスコミに取り上げられたり、あるいは林業が映画・小説のテーマとして取り上げられるようになった。こういったシンポジウムもいろいろな場所で開かれるようになっています。一頃に比べて明らかに、林業や森林という問題が、我が国のなかで、大きな空気として流れるようになっていることを強く感じるわけです。ですから最初に、みなさんにもどうしてそんな風になったと思うかを考えていただきたい。それから私どもは、非常に偉そうな言葉で言うと、今日も基調講演などであったような話を、国民の方々にどんどん啓発していかなくてはいけません。あるいは政治家の方々にもっともっと理解をしていただかないといけない。そういう宿題も持っているのではないかと思うのです。そのようなことを一番目にお願いしたいと思います。
2つ目は、先ほど赤間さんに基調講演でもお話いただいた成長戦略についてです。強調されていたように、政府の大きな政策基本案のなかで、林業という言葉が取り上げられた。これは歴史的なことです。戦後数十年以上も続いてきた問題について、ようやく解決の糸口が見えてきたというわけです。それをこれから、どのように育んでいったらいいのか、拡大していったら良いのかということについて、ぜひみなさまの考えをお聞きしたいと思います。
3つ目は、これからの政治の話で「地方創生」についてです。ご案内の通り、9月の上旬には地方創生本部長に安部総理が就任され、特命大臣として担当閣僚が就くことになります。地域の活性化、あるいは地域の雇用、地域の産業というものに力を入れていく。これは来たるべき人口減少をにらみながら、将来の問題に大きく関わる部署です。そんななか、この地方創生と、林業問題、林業の産業問題を、我々としてはどのように結びつけて考えていったらいいのか。それをぜひパネリストのみなさんにも考えてお話をいただきたいというのが3つ目です。
最後の4つ目は、マーケットとイノベーションについて。プロダクトアウト、つまり林業の問題はとかく山の管理、あるいは供給サイドの話が中心になりがちですが、今日のこれまでの話でも強調されているように、需要の拡大、「木は切って使う」といったキーワードが出ております。マーケットについては今日の話にはあまり出なかったのですが、やはり輸出ということを視野に入れながら、1つの経済学として捉えた産業にしていかなくてはいけないと考えています。そのマーケットをどのように考えていったらよいのか。あるいはオリンピックというチャンスをとらまえて、どうしていったらよいのかという視点。それからイノベーション。これはCLTの話になります。中島会長の話にもあったように、会員も増えており、非常に協会が盛り上がっているなか、CLTをさらにどのように進化させていったらいいのか、あるいは法的な問題をどのように解決していったらいいのか。
以上、4点に絞って話を進めていきたいと思います。まずは冒頭に申しました、空気の話なのですが、どうしてこんな風に林業が、あるいは森林問題が大きな話題に挙がるようになったのか。非常にうれしい悲鳴ではあるんですけど。本郷さんから順番に聞いていきたいと思います。
本郷林野庁の政策で「緑の雇用」という事業をやっています。ここに応募する方で、私の知っている限りでは、「自然のなかで仕事がしたい」ということで林業に転職しようという方がかなりいらっしゃいます。何が言いたいかというと、養老孟司先生が「人間の脳みそは秩序を求めるので都市に住みたがる」ということを言っていらっしゃいますが、一方で我々のDNAのどこかには、このコンクリートのジャングルには住んではいられないという本能が残っていて、自然の中や自然に囲まれた中で暮らしたい、仕事がしたい、コンクリートジャングルの中にいるのは嫌だというような気持ちがあるのではないかというのが、この空気の原因ではないかと。あまりに人間が密集しているのは不快ですし、そういうことではないかなと私自身は思っています。
南沢木で作られた製品という観点で言うと、最近の女性は健康志向、体に良いものを求める人がすごく増えていて、価格よりも品質を重視するという傾向にあるのではないでしょうか。なかでも木の製品には、安全なイメージや温かみを感じるので、手に取る人が増えていて、見直されているのかなと。あとは森に行くとリフレッシュできるというのは、結構、誰しもが感じることだと思うんですが、実際、都会にいる時よりも森林にいる時の方が、ストレスホルモンは少ないということが科学的にも証明されていると聞きました。きっとそういった感覚を、みなさんそれぞれが体で感じ始めたからこそ、森が注目され始めているのかなという風に思います。
山梨急成長した日本が成熟した社会を迎え、多くの人がホッと一息つきたいと思うようになりました。それは技術だけではできなくて、技術と何かとの調和が必要となる。それは何かといえば素材なんですね。カレンダーを見ると、月曜日から日曜日までありますが、木(き)、土(つち)、水(みず)、それらはすべて建築を作っている根本の材料でして、それらが原点として見直されたんじゃないかなと。建築をデザインしていて強く感じています。
中島岡山の真庭という、あまりにも森のど真ん中にいるものですから、その辺の空気がよくわからないのですが(笑)。真庭の観光連盟が行っているバイオマスツアーに、いま年間2000人を超える人が訪れていて、(当社の)総務の人間は、ツアーの案内係じゃないかというくらい、毎日のように対応に追われている状況です。我々にとってはごく当たり前の光景が、参加した人たちには新鮮に写っているようで、そのことに非常にビックリしています。木は昔から使われている馴染み深い素材ですが、活用の可能性が無限にある新しい素材ともいえるのです。
赤間空気ということで言いますと、非常に象徴的だったのが、先週の土曜日の日経新聞の2面。そこには「日本、木材大国への道」という記事が掲載されていました。日本は木材産業の大国を目指すんだというテーマを、日経新聞が書いているということを目にして、いわゆる林業、木材産業というものが、完全に経済を構成する一つの大きな要素として認められるようになったのだと感じました。そのもとになった理由を考えると、昨今の気候変動と森林とは、切っても切れない関係にあります。インドネシアやマレーシアなどの東南アジアや、ブラジルを中心に広がる熱帯雨林。これは一回切ってしまうと二度と再生しません。地球を作り直さない限り、熱帯雨林というのはもとには戻らないんです。生物多様性の宝庫である熱帯雨林の木は絶対に切って使ってはいけない。しかし、貧しい暮らしをしている人々が、その森林資源でもってなんとか食いつないでいるということ。そしてこの気候変動を考えた時、人々は否応なしに木材と真剣に向き合う必要が出てきたのではないかと。では日本の木材はどうなのかということで、今世紀に入って日本の森林は非常に注目されたのですが、実際、環境保全のために間伐はしたのはいいのだけど、その間伐した木材はどうなっているのか。切り捨て間伐といって、現地に捨てているわけなんですね。これではとても持続可能な姿にはならないわけです。そして我々が忘れてはいけないのが、2011年3月11日の東日本大震災です。その時を境に、日本人の多くが持続可能性ということについて痛いほど感じたのだと思います。こうしたことが契機となって、木材産業の川上を支える林業に、一般のみなさんの関心が向いてきたのではないかと思っています。再生可能エネルギーの固定買取制度や木材利用ポイントなど、政府からのさまざまな後押しがあったことも忘れてはいけませんが、やはり震災を機に、我々一人ひとりが持続可能な暮らしとはどういうことなのかということに目を向け始めた。その暮らしを支える重要な要素の1つとして、林業に脚光が寄せられるようになったのではと感じています。
高藪ありがとうございました。空気はそんな感じで流れているのですが、さきほど中島さんがおっしゃったように、製品にするまでには60年もかかるし、切っても赤字なので切らない。これでは国をあげての経済学にならないので、そこをなんとかしないといけない。空気だけではなくて、実際に国の経営にしていかなくてはいけないと感じます。
みなさまにお詫びがあります。本来、パネラーの方々の自己紹介のあとに、日建設計の山梨さんから話題提供のプレゼンテーションを行っていただく予定になっていたのを、先に進めてしまいました。順序が逆になってしまい大変申し訳ないのですが、これから山梨さんに話題提供をしていただきます。よろしくお願いいたします。
山梨逆に忘れていただいていて良かったのかもしれません(笑)。というのも木材と3.11がつながるのではないかというのが今日の私の話なんですね。本日は、都市建築と木材の関係について問題提起をしていきたいと思います。
最初に日建設計をご存じない方もいらっしゃると思いますので説明をさせてください。いわゆる組織設計事務所で多くの都市建築を手がけています。例えば、三井物産さんの本社も私どもで設計させていただいていますし、その近くにある三井住友銀行さんの本店も私自身が担当させていただきました。そういった大型建築をやっております。また、東京タワーや東京スカイツリーといったかなり大型で、東京の都市空間に大きな影響を与える建築にも携わらせていただいている設計事務所です。
私は設計部門の代表として、都市のデザインを行う立場なのですが、最近では大崎にあるソニーシティ大崎の設計を担当させていただきました。これがソニーシティ大崎の外観です。実はこれ、土の建築です。夏場に大量に降る雨を陶器でできた手すりに流して、手すりから雨水を蒸発させている。何でそんなことをやるのかというと、気化熱を使って、ビルを冷やしてしまおうと。地表面からだと2度、ビルの表面温度はなんと12度下がります。つまりエネルギーを使わないでヒートアイランドを抑制できる画期的なビルなのです。これまで必要悪とみなされていた都市の大型建築を、少しでも社会に貢献できる存在にすべく目指すことが私どもの仕事の骨子だと思っているのですが、幸いなことにこのソニーシティ大崎ではその先進性を認められて、日本建築学会の作品賞をいただくことができました。
さてここからが本論です。私たちからの問題提起は、都市の大型建築と木材の関係。より端的に言えば建築における木材の危機についてです。2009年に私はこの木材会館という、伝統的な尺貫法で製材されたヒノキをかなりふんだんに用いたオフィスビルを設計させていただきました。新木場に建っているので、すでに木材関係のみなさまにはすでにご覧になっている方も多いかと思います。ここでのテーマがまさに都市建築における木材の危機でした。なんとかしてこの危機を都市建築における木材の復権へと転換できないだろうか。それがデザインのテーマでありました。きっかけは外国人留学生の一言でした。「日本には木材建築の長い伝統があると聞いたが、実際に来てみると何もないじゃないか。特に東京には木材は皆無だ。日本の建築家は何をやっているんですか?」と言われて、ハッとしたんですね。確かに明治以降、西洋の先進的文明に追いつき追い越そうとする過程の中で、いつの日か木造建築は脆弱で燃えやすくて、大型建築には不適合で都市に作ってはいけないものだといって、都市から排除されて現在に至りました。しかし依然として我々には木材を愛する精神が残っています。オフィスでは残念ながら金属を用いることが当たり前であっても、住まいとなると我々日本人は木にこだわるんです。ありふれた表現ですが、日本人というのは木材のよさがDNAに染み込んでいるという言い方ができるかもしれません。しかし、これは本当にそうなのでしょうか。我々が木材は美しいと感じること、いい香りだと感じる感覚は、人生のひと時を木材の建築のなかで過ごした経験をまだ持っているからではないか。
ここで簡単な調査をしたいと思います。ご協力願います。これまで生まれてから今日まで、木材の建築のなかで生まれ育った経験が全くないという方はどのくらいらっしゃいますか?シャイな方もいらっしゃるのかもしれませんが皆無です。普通、東京でやっても、8割の方が木材建築に住んだ経験があるとおっしゃいますね。それこそが非常に重要だと思います。もしかしたら私たちの子どもや孫の代では、生活のなかで木材に触れる経験というのはなくなってしまって、日本人の木材好きというのは消えてしまうのではないかという危機感を持っています。木材が美しいとか、良い香りだとか、こういったごく自然な感覚は実は風前の灯火にあるのではないかと。この仮説が正しいとすれば、木材の復権というのは、我々の世代が担わなくてはいけない大きな問題なのではないか。そして建築的な課題を超えて、産業やビジネスの大きな課題でもあるわけです。
こういった想いから、木材会館では木材を用いた建築作品をつくるのではなくて、当初より都市建築における木材の復権をメインテーマとしてデザインを進めました。サブテーマは4つです。最初のサブテーマは「適材適所」。無理して木材を用いていると後で付いてくる人がいないんですね。木材を使うにふさわしいところにきっちりと使っていこうと。ですから無理してすべての構造に木使うのではなくて、適材適所で木質を使う「木質建築」というのを提唱しました。もちろん構造に一切使わないということではなくて、最上階の屋根などは自分しか支えませんから軽いほど有利なわけです。こういったところには積極的に木を使おうと考えました。2つ目は「エイジング」。最近流行っている言葉です。木材が古くなり、グレーに変色することは一般的に悪いことのように捉えられていますが、実はこれも木材の持ち味なのではないかと考えました。仮に古くなったり割れたりしても、部材はすべて糊付けしないで、ボルト止めにしていますから、全て取り替えられるような設計になっています。木材というのは軽いですから非常に簡単に交換できるんですね。これも木材建築の便利なところです。3つ目は「安全性」です。火災の際に発生する煙をコントロールする設計を行うことで、木材というのはこんなにもふんだんに使えるということがわかり、目から鱗でした。詳細はすでに専門誌等に発表していますのでここでは割愛しますが、木材はすでに現在の法律で、十分に使える素材なのです。4つ目は「生産性」。使用した材料はすべて住宅用の木材として流通している尺貫法の材料を使いました。ただし、細かな材料の細工にはコンピュータを使いました。コンピュータを用いた工作機を使うことで、非常に安く早く、オフィスビルに木を使うことができるようになります。こうした技術の導入も必要だと思います。
木材会館での試みは、建築業界では多少のインパクトは与えられたかもしれないですが、本格的な木材の復権にはまだ至っていません。一方で、同様の木材の復権の試みは、今日お話があったように、世界中で取り組まれています。恐らく世界的な事象なのだと思います。さらには木材供給を担う山林に目を向けてみますと、非常に危機的な状況です。木材と山林の適切な循環ループを我々は作らなければいけない時期に来ています。そのためには、社会に木材の復権を認知してもらう大きなきっかけ、トリガーが必要です。
そして私は2020年の東京オリンピックこそが、そのためのイベントとして、紛れもないいい機会であると思っています。成熟した都市・東京で、そして日本で、人々の価値観は多様化していて、オリンピックのテーマがちょっと見えづらくなっている。少なくとも海外から東京オリンピックを見る限り、世界の人々をお招きする、おもてなしをするためには、東日本大震災からの復興や原発からの安全な状態をコントロールできていることを世界に宣言することが、一つの大きな建設的なテーマであるはずなのです。
例えば、最もふさわしいのはメイン会場となる新国立競技場かもしれませんが、この客席、この内装に東北で伐採された木材が、そしてそれを支えるように、全国で伐採され、加工された木材が使われていたら、それは東北復興の象徴であり、歓迎の印になるに違いありません。繰り返し報道されるであろう、オリンピックの入場式や開会式で、木質により作られた座席や内部がテレビで放映され、そのたびにアナウンサーは、この材料は東北を中心とした日本各地で伐採され、製材された材料だと繰り返し告げるでしょう。木材が大型の施設を包み込む姿は、おそらく東北の復興の明確な象徴となりますし、多くの人の心を捉え、心のなかに木材に対する可能性を刻みこむに違いありません。昨今、話題となっている、競技場建設費の高騰に対しても、例えば木材客席を国民の寄進や寄付を募って声を集めた形で行えば、それこそ大きな力になることは間違いありません。
都市建築における木材の復権は、先ほどからお話しているように、いつでもできるものではなくて、木材のよさを肌身で知っている我々の世代がやらなければいけないわけです。木材の復権は、現在に生きる木材関係者、そして企業、そして我々建築関係者がいま担わなければ永遠にその機会を失ってしまうんです。こうした状況のなか、地道で個別な努力とともに、オリンピックのような千載一遇の機会、そしてその機会を木材関係者が連携して活かすことで、木材の復権を図らなければいけないのではないか。というのが私からの問題提言です。ご清聴ありがとうございました。
高藪ありがとうございました。では本題に戻ります。2つ目の成長戦略のところですが、少し行政的な、専門的な話になるかもしれません。農業の6次産業化というのが言われて久しいのですが、いま林業の6次産業化、あるいは昔から言われている林業の農商工連携。これは林野庁が担うことにはなっているわけですけど、行政担当省として、林野庁と省庁とでスクラムを組んでやっていただきたい。これだけ林業が注目されて、経済学としてやるのならばそれは必要不可欠だと我々は考えています。そこのところを、林野庁はどう考えているのか。本郷さんにお聞ききしたいと思います。
本郷1次産業、2次産業、3次産業の結合なり、連携なりが6次産業化であって、1+2+3だったり、1×2×3ということだと思うんですね。そういう意味では林業というのは、はなから6次産業なんです。農産物は生もので、そのまま口に入るものです。ですから加工やサービスという部分は、わざわざ6次産業と言わなければならないのが農業だと。でも林業の木材に関しては、角材加工を行う製材所や、合板・CLTを作る工場など、最初から2次産業の部分がセットされていないと1次産業だけでは成り立ちません。そして加工された木材を使って建てるサービスとしての建築業や、家具を作って販売する商売としてのサービス業というのが必ず存在しています。ところがその1次産業、2次産業、3次産業というのは、これまで分断されていて、川上と川下の連携が十分ではなかった。川上の人は木を高く売ることしか考えず、一方で製材所の人たちは木をできるだけ安くたくさん売りたい。家を建てる人は安く仕入れて良い家を建てて儲けたいと。そこの連携が利害関係として、相反していたところがあったのだと思います。しかし川上から川下まで、1次、2次、3次産業が運命共同体になれば、本来林業が持っていた6次産業化ということが成り立つのではないかと考えます。川上は木を使ってもらい、家を建ててもらわないと山が成り立たない。木材を使う立場としては、山から木が出てこないと成り立たないということで、そこを運命共同体と思っていただけるようなビジネスモデル、あるいはバリューサプライチェーンを作っていきたいと考えています。農商工連携という意味では、いま申しあげたように商売として、あるいは工業として、もちろん6次産業化のなかにもあるかもしれませんが、商売の中に木材を取り入れていただきたい。どんなものでも代替品はありますが、それを木材に代替する形になることを望んでいます。わかりやすく言うと、明治時代までは木だったものが、今やすべて、石やコンクリートに変わってしまったわけです。そういったものをいま一度、商業の世界、工業の世界で、木に変えていくようなビジネスを展開したいというのが、私のイメージする材と商工連携の形です。
高藪行政庁としての省庁の連携という意味ではどうでしょうか?
本郷もちろん国交省との連携でいえば、CLTを使うには建築基準を見直してもらわなければなりません。赤間さんの話にもあったように、昔からの、木材は使ってはいけないのだという常識をひっくり返して、木造としてどんどん使いましょうと。もちろん火災で多数の死者が出る恐れのある木密地域のような場所は改めていかなくてはいけませんが、必ずしも火事が危ないから木造がダメということはないので、その部分は連携してやっていきたいとは思っていますし、経産省についてはビジネスとして成り立つようになれば、木材をいろいろなところに使ってもらえる商流を作っていただければと。あるいは地方創生という話が出ましたけど、森林資源を使い、そこに所得と雇用が生み出されて若い人が定住できる。あるいはお年寄りも住み続けることができるような流れを作るのは、総務省との連携になると思います。さらに私どもが視野に入れているのは文科省との教育との連携。木育と呼んでいますが、木材を教育の中に取り入れ、学校の施設を木材で作ることで、子どもたちが木の香りに親しんだり、将来の消費者を作っていくような流れを、文科省と一緒に手がけていきたいと考えています。
高藪よく霞ヶ関の縦割りということが言われますが、その辺の連携はうまくいきますか?
本郷縦割りというのは責任論なんですね。これについての責任は一体誰が取るのかということだと思うんです。縦割りを外して横割りにした途端、誰が責任をとるのかがわからないという仕組みが一番よくない。重要なのは、責任の所在をはっきりした上で連携していきましょうということなんです。こと予算に関しての話になると、例えば地域活性化ということをやると、ある省庁の予算を取るために、似たような事業を別の省庁でも行うというのは縦割りの弊害としてあるのかなと思います。しかし現在の状況は、地方創生についても、しっかりと連携してやっていけると思っていますし、先ほどのCLTの話でいえば、2年後の早い時期には建築基準法を直すところまでいけるよう、国交省には働きかけていきたい。後押しさえあれば、各省庁は同じ方向を向けると考えています。
高藪ありがとうございました。しつこく聞きましたのは言うまでもなく、成長戦略に「林業の成長産業化」という言葉が出てきているわけです。ところが林業を成長産業にしていくために、一体どういった体制で、どのような予算を持って、どうしていけばいいのかというのが具体的に見えてこない。そこで商社マンの赤間さんが、仮に一国の総理であったのならば、成長産業をどのように展開していくのかということを語っていただきたいと思います。
赤間成長産業ということで言いますと、日本の場合はこれから少子高齢化ということで、人口が減るのが目に見えていますので、マーケットを外に求めるということをやっていかななければならないのだろうと思います。輸出ということになるわけなんですが、日本の丸太をそのままで輸出するのはもったいないわけです。また、利益もそんなに上がりませんので、やはり加工した製品として輸出すべきだと考えます。今さらながら、木材産業として新しい木材の用途を開発していかなくてはいけません。そしてCLTもその典型です。ヨーロッパで使われているとおりに、日本でCLTが使えるかというと、現状はその通りに使えないでしょう。やはりCLTという素材を活かして、日本らしい木材の用途を考えていかなきゃいけないのだろうと思います。それとやはり木材の場合には、住宅ということが中心になるんですね。木を使って、空間を和のテイストでもって表現することで、こんな空間に住んでみたいなという風に外国人に思ってもらうことが必要です。その時に重要なのがやはりデザイン、意匠性。それも法隆寺や唐招提寺や伊勢神宮といった空間の美しさを、木材で表現できればベストだと思います。さらには、世界に冠たる乗用車や家電製品を作る、日本の叡智というものを、この木材産業に集中的に集めて、エンジニアリングと意匠性で、和の空間を輸出する。私だったらそういった部分にインセンティブとして補助金を付けるなどして、成長産業化させることを考えます。
高藪ありがとうございました。ぜひとも商社として、リードしていただきたいと思います。これに関しまして、中島さんからご意見ありますか?
中島木材は技術がキーワードだと思っています。ヨーロッパの木材産業を見ていても、北アフリカ、ヨーロッパ全土、トルコ等のアジア、それから中東などの国へ、その当地にとって一番いいものが輸出されています。日本で木材が余ったら輸出できるという考えは違っていて、日本にある技術を製品にして、技術と一緒に持っていくのです。木材がないという国は決して少なくないのです。過去、日本は台湾に、神社、仏閣の材料であるタイワンヒノキで大変お世話になりましたが、いまは輸出が禁止されていて、台湾の材はすべて輸入です。その台湾で、最近、オーストリアから入れたCLTを使って、5階建てのビルが建てられました。こうやって木材がない国が求めているわけですから、日本は技術を持って一番よいものを輸出すればいい。そして輸出は競争力がないとできません。赤間さんがおっしゃるように技術と一緒に持っていくということができれば、その時初めて森林にお金が残ると考えています。日本の木材の5割を自給自足でまかない、そのパイを広げながら輸出も5割にして、ようやくバランスがとれるくらいのマーケットだと思います。
高藪ありがとうございました。成長産業という言葉は踊るのですが、まだ具体的になっていない部分に多少イライラしているところがありまして、今のような話を多少参考にしていただきたいと思います。次の議題「地域創世」へと移ります。すでに話に出ている部分では、先ほども申し上げましたが、地域の過疎化、限界集落、あるいは限界市町村の問題が人口問題と併せて、我が国の将来に極めて深刻であると。だからそこを、産業を起こして雇用を起こして活性化させようと、総理自らが本部長になられる。我々としては林業を産業化したいということで、タイミング的にもピッタリですので、地域創世という政策に対して、何か物申していきたいという風に考えるわけです。地域創世に関してどうしていったらよいのか。それでは生活者の立場で、これまでのような難しい話でなくて結構ですから、南沢さんお願いできますか。
南沢先ほども少し触れましたが、山梨県の森に行かせてもらった際に、そこの森の木で作られた製品についても見せていただく機会がありました。実際に森を見て、この木を使って作られたものだということを知ると、親近感が沸いて、想い入れが生まれたんです。どういった場所の材料を使って作っているかだとか、どのような人が木を切っているのかを知ると、一気に距離が短くなります。少し話が違うかもしれませんが、先日、十勝に行き、こだわりの野菜が作られている過程を取材してきたのですが、いざ東京に戻ってきて野菜を見ると、自然と十勝産のものを選んでいる自分がいるわけです。木材についてもまった同じだと思うのです。どういった人が林業や森づくりに関わっているのかを知ることができたら、生活していくなかでどういった製品を選ぼうかという判断のきっかけ、足がかりになるのではないでしょうか。まずは多くの人に森づくりの現状を知ってもらいたいなという気持ちで、私自身は、発信していけたらいいですね。あとは先ほどオリンピックの話が出ていましたが、出身地の木を使うとか、被災地の木を使うとか、すごくよい取り組みだと思います。使われている木の産地がわかるともっと良いのかなと感じました。
高藪ありがとうございました。パネルディスカッションではあるのですが、会場におられる慶應大学の米田雅子先生が、しゃべらせないと帰らないみたいな表情をされていますので(笑)、一度だけ会場に振りたいと思います。これまでの議題のなかで、総括でも結構ですし、ご意見でも結構ですからどうぞ。
米田JAPICの中の森林再生事業化研究会で委員長をさせていただいている米田でございます。林業復活・森林再生を推進する国民会議は啓蒙活動で、それに対して我々は実働部隊として、現場で頑張るということをやらせていただいています。そもそも今日のしつらえが、美しい森林づくり全国推進会議と国民会議が連携してこのようなイベントを開くということで、私自身、非常に喜んでおります。みんなが力を合わせて、盛り上げていくということができているのがほんとうに嬉しいなと。山梨先生というトップアーキテクトが木材の普及を高らかに宣言して、オリンピックのなかでも大きな役割を果たしていかれる。マスターアーキテクトの一人ですので、そういった力強い味方を得て、木材をどんどんアピールしていくことが、中山間地域の活性化にもつながります。さらには、産業界を高藪さんのような方にご先導していただき、盛り上がっていくことに、すごく期待が持てるのではないかなと。今後は地域創世につなげていくことになるのですが、先ほど話で出た、縦割りを超えるということ。なかなか言うは易しですが、実際に縦割りを超えていろいろなプロジェクトを進めていく時に、誰が責任を取るのか、誰がその予算を要求するんだというところで必ず各省に落ちていってしまうんですね。そうではなくて、もう少し本気で横断的な予算をつけて、サポートしていただけるようなものを作らないと、実がならないのではないかと思っています。
高藪ありがとうございました。突然振って申し訳ありませんでした(笑)。本郷さん、予算という意味では地域創世もそうですが、成長戦略にこのように明記されたからには、林野庁の予算は増えるのでしょうか?
本郷増えるようには努力するし、目一杯要求していきたいと思っていますけど、地域創生に関していえば、「まち・ひと・しごと創生本部」が各省に予算をどのように振り分けるのかもまだ決まっていないので、実際に、林野庁の予算が増えるかどうかはよくわかりません。我々としましては目一杯要求をして、12月に向けて獲得をしていきたいと思いますが、私どもだけではできないこともいっぱいありまして、先ほど言った、総務省の過疎対策のお金ですとか、経産省の中小企業を応援する中小企業支援だとか、そういったところとの連携。あるいは国交省で言えば、木材を使ったまちづくりとの連携もあるのかもしれません。予算というのは、どこの省庁も自分のものにしたくてしょうがないというこの仕組みを、この予算についてはお前の省のここで使えというような采配を、創生本部の大臣ができるようになれば、例え縦割りであっても、誰が責任を取るのかわからないというようなことにはならないのかもしれません。
高藪ありがとうございました。それでは最後、4番目のマーケットとイノベーションというテーマに進みたいと思います。某省の事務次官の方から聞いたのですが、林業がなぜこんなに大事にされない産業であるのか。それは政治が日を当てないからだと役所のトップの方が言われたそうです。確かに、日本の農業GDPは8兆円で、登録従事者数が240万人。それに比べて林業は、木材生産額は2500億くらい。8兆円対2500億円の差です。それから登録従事者数が約5万人で、そのほとんどが65歳以上です。つまり、2500億円で5万人しかいない産業、しかも票にならないところに力は入れないと。その話を聞いてまさになるほどと思いました。それで同じ内容の話を多くの国会議員の先生方にしてきたのですが、みなさん、数字をご存じないのはもちろんのこと、林業の「り」の字も理解がないという方が大半でした。そんな状況ではあるのですが、冒頭に申しましたように、少しずつ風が吹くようになったことで、ややニュアンスは変わってきました。それで、本日のみなさんもおっしゃっているとおり、やはりマーケットを大きくしていかなくてはいけません。それも、国内も輸出も視野に入れながら、やらなくてはいけないというところまでは指摘が挙がるんです。さてそのマーケットの拡大に関して、先ほど山梨さんからお話があって、シンボリックに東京オリパラの国立競技場に木材を使うという象徴的なことをされようとしています。みんなでそれを応援するサポーターにならなきゃいけないと、私などは思っているわけですが。山梨さん、ちょっとその辺り、補足していただけますか。
山梨使うという宣言はできないのですが、使いたいという想いが国民にはあるはずだと思っています。先ほども言いましたように、木材は今復権しなかったら、我々が良いと思っている当たり前の感覚がなくなってしまう。そのためにはどうしても大きなイベントがいる。それがオリンピックなんです。そのなかで、どうしても私は民間の人間ですので、こういうきっかけをうまく活かすためには、トップダウン、行政からの政策的なものも必要ですが、やはり民の力も必要だと思うのです。そこで色々と考えたのが寄進ですね。昔、お寺をつくるときに、瓦の裏に1枚ずつ裏書きをして、みんなで寄進をして、お寺を支えた。ああいう意識がどうもオリンピックにはいるんじゃないかと。今なんとなくオリンピックというのは、東京の人はやれ予算がかかる何だって言って、シラケていますけど、地方に行くと、「東京、頑張らなきゃいけないですよね」ってすごく励まされるんですよ。私、役所の人間でもなんでもないのに(笑)。あの状況を見ていると、日本全国、つまり東京オリンピックというのは東京のオリンピックじゃなくて、東京が日本を支えるオリンピックなのだと思のです。木材というのは、25%はもとから東北にあったビジネスです。ですから東京オリンピックで木材を使うということは、25%の東北のビジネスを支えると同時に、残りの75%の全国の木材を支えるビジネスでもある。これほど日本の現状を支える象徴的なものはないわけで、これを何とか行政からの声のほかに、民間からの声を上げて、各都道府県の知事に、木材寄進、木材寄附という形で寄進・寄附を募ることをお願いする。おそらくこの周辺を見回しても、企業のロビーはどこも石張りなんですね。石張りが悪いわけではないですが、いくつかの企業が目覚めてくださって、企業のロビーが無垢の木張りできるとか、そういうものをいっそ流行にして時代を変えてしまいたい。そのチャンスがどうも2020年のオリンピックなんじゃないかと。普段こんなこと言っても、誰も聞いてくれないのですが、オリンピックにひっかけて言えば何百万人もの人が賛成してくれるだろうと思って、今日はそれだけを言いたくてここに来ました。
高藪オリパラの施設に関して、国立競技場以外にあとはどんなものが考えられますか?
山梨例えば、民間のマンションの低層部を選手村として使おうという話があります。例えばいま極端な話、数千万円のマンションでも億ションでもまったく内装は変わりません。みんなビニールや木をプリントした材料でできているのですが、これを機会に木質を活かしたものにする。さきほど木材会館の写真を見ていただきましたが、あれができた時に「マンションですか? 売ってください」という問い合わせがすごくありました。その時に思ったのが、木をたっぷり使った高級なマンションというのは日本で絶対に需要があるということ。選手村を皮切りに、ある低層部を木造化して、それを高級マンションとして再利用していくようなことができれば、単に上からの押し付けではなくてビジネスとしてWin-Winの関係ができるのではないかと。ですから選手村も狙っていますし、それからバスの停留所が何もスチールとガラスだけでつくる必要はないのではないか。このチャンスに木質化できないだろうかという話ですよね。先ほどあった話で和のテイストというのがありましたが、設計屋から言うと和のテイストを最も感じさせるのは、「現し」という言葉なんですね。木を露出させて使うというのは実は日本固有の文化なのです。仏教伝来してから天井という存在ができたのですが、それ以前の日本の建築には天井はありませんでした。ですから「現し」とうキーワードで、乱暴に言えばデザインはどうでもいい。ただ木を使った以上、それを現して、目に見えるかたちで見える化をして使うのが日本の伝統文化であり、それだけで和を感じると思うので、この機会になんとかそれをやりたい。クロスラミナもぜひ露出して使いたいという想いです。
高藪ありがとうございました。中島さん、先ほど話しに出ました、国交省の住宅局が手がける建築基準法について、再来年、CLTの使用に関してどのように変わるわけですか?
中島いまCLTはヨーロッパでは使われていますけど、最近はカナダ、アメリカでも使われるようになっています。そんななかで日本の建築の場合には、在来軸組構法といわれる伝統的な工法と2×4工法と丸太組工法があって、これらは法律的に告示されていて使えるわけなんですが、CLTにはまだそういった認定がなかったわけなのです。ですが、みなさんの努力もあって、日本農林規格が2年ほど前に言い出され、ものすごいスピードで今年施行されました。この後、3月の予算委員会の席で、総理大臣、国交大臣、農林大臣の3人が発言されて、平成28年度の早々には告示を出して変えると言われました。日程まで指定して宣言するというのはなかなかないことだろうと思いまして、水面下での林野庁さんの努力があってできたことだろうと思うのですが、これはえらく速いスピードです。その前段階で1年後くらいに、CLTの基準強度を策定しようという動きになってきています。基準強度というのは国交省の宣言事項でありまして、これが出てくれば、例えば床に使ってみようとか壁に使ってみようとか、計算上で部分使いができるようになるわけです。その後1年たったら告示があって変わるということで、ちょうど2020年のオリンピックに向けては構造的な使い方に関しても段取りができて、なんとかちゃんと間に合って、立派なものができるという方向で進んでいます。これは本当にオリンピックを念頭においた形でみなさん発言されているのかと思うくらいビックリしました。
高藪ありがとうございました。そろそろお時間となりました。4つのポイントについてずっと話を進めさせていただきました。概ね総括をさせていただきますと、国民の森林や林業に対しての関心・機運が明らかに高まってきた。マスコミにもお願いして、どんどん応援していただかなくてはいけない。それから一番肝心の政治における林業という産業に対する政策のプライオリティが明らかにアップしたのではないか。認知されつつある状況になってきたのではないかと思います。それから林野庁さんが中心になって言われているのですが、マーケットインの思想、新しい技術。そうした現状が本日話をさせていただいて、ゲストの方の話、基調講演、それからこのパネルディスカッションをとおして、新しい考え方、新しい風が今回の議論でよりクリアに見えるようになったのではないかと。会場のみなさんもそのようなことを共感していただき、ぜひ林業を応援していただきたいと思います。本日はこれでパネルディスカッションを終わりたいと思います。パネリストのみなさん、ありがとうございました。
■ 講 評
出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
皆様、今日は1日暑い中でしたが、このようにいろいろな方面からディスカッションができ、非常に良かったのではないかと思っています。ただし、今日のパネルディスカッションを聞いていて、少し気になったこともあります。それは、かなり生産者側、供給側のロジックに偏った議論がが多かったのではないかなということ。日本人のDNAというならば、東京を中心に考えるのではなく、日本人は何に木の魅力を感じたかというところに立ち返らないといけないのではないかと感じました。はたして、東京の街を見て感動する人がいるのでしょうか。コンクリートの町ということでは、中国の上海には及びません。ドイツの話が出ましたけれど、BMWの本社のあるミュンヘンは人口150万人の都市でありながら、すごく森に近い。私の友人の会社は、15階のオフィスから下に降りて行くともう目の前が森なのですね。これはもう、東京とは決定的に違います。
統計によると2050年までに日本の人口は減るが、東京では減らないという結果が出ています。東京一極集中もそろそろいい加減にしなければいけないのではというのが地方創生だと思います。しかし、それが東京で考えた地方創生の論理になってしまうと、日本は死に絶えてしまうのではないかと思います。なぜなら地方が「東京化」していくからです。私が非常に危険だと感じるのは、例えば軽井沢の別荘です。もともと父親が学者で、私が子どもの頃、軽井沢にボロ屋を建てて、準住民のように通って、暮らしていた場所なのですが、今ではショッピングセンターなどがどんどん開発されてしまって、軽井沢が東京化、東京の下町のようになってしまっているわけです。それが日本の望みなのでしょうか? そうではないと思うんですね。そういう意味で、日本人と森との距離感というのが、東京の人はものすごく遠いと感じるんです。
先日、新潟で開催された植樹祭に行った時に、長岡市や新潟市をずいぶん見せていただきました。東京から見ると長岡も新潟も一緒くたですが、地元から見ると長岡や新潟ということが重要で、森に近い町なのです。そう考えると、東京で考えて行政をやるのではなく、地方にもっと権限があって、地方から森づくりを盛り上げるべきだと思います。各知事さんたちがどのように森や木のことを考えているかというのを聞きたいので、次の回では、そのような方々を是非呼んでいただければと思います。森を守るために林野庁があるという時代から、今度は本当に生活者が喜んでいただける林野庁に変わっていかなくてはという話を昨年はしました。成長はいいことだ、金儲けだと言っている時代はもう終わりました。では本当は何に幸せ感じるのかというところに、森の重要さはあります。私は「成長戦略」そのものも「成熟戦略」に変えるべきだと考えます。日本人の生活が充実した空間の中にあって、それが森に近いというのはすごく豊かなことであって、何も中国などと張り合った先に幸せはないと思うのです。
先週、軽井沢から帰ってくる時、タクシーの運転手さんから、「別荘のキツツキ被害はどうなりました?」と、聞かれました。そんな何でもないような普段の会話がすごく幸せに感じたのですね。東京に良いマンションを買うのが幸せであるという価値観を変えていくような運動を、林野庁が主導すると、すごくいい国に日本が再興できるのではないかと思います。決して、経済的な成長で羨まれるのではなく、日本、東京を訪れた(経済成長を追っている)中国の人たちなどに、「みんないい生活しているな」という姿を見せたいなと思っています。その時に、日本がもっともっと自分たちで木を使った生活をしていないと、人も呼び込めないかもしれません。あまりまとまりのない感想となりましたが、これを本日の講評とさせていただきたいと思います。本日はどうも、有難うございました。