近年、我が国の国土の7割を占める豊かな森林資源を活かした、地域経済の活性化・地域再生等への関心が高まりを見せています。さらに、木造で中高層建築物の建設が可能なCLT(直交集成板)等の技術開発が進む中で、新たに都市部での木材利用の可能性も拡がっています。
他方、国際的には2013年から木造建築物や木製家具等への炭素固定量が温室効果ガスの吸収源として計上されることになり、地球環境保全に向けた木材利用の役割も高まっています。
近年、森林・林業分野においては、多様な行政施策が展開されるとともに、幅広い業種の民間企業等が国産材の活用への関心を高めており、新たな技術の開発やデザインを生み出すことにより、森と木を活かした多様なライフスタイルが提案されています。
そこで、我が国では東京オリンピック・パラリンピックが開催されるとともに、地球温暖化防止や生物多様性保全等の国際条約の目標年でもある2020年に向けて、産業界や行政、生活者等の幅広い関係者で、新たな森づくりの可能性について議論するシンポジウムを開催します。
■ 基調報告【1】
林業の成長産業化・木づかいの町づくりに向けて
沖 修司 (林野庁 次長)
林野庁の沖です。よろしくお願いします。「2020年に向かう、新たな森づくりシンポジウム」にお招きいただきありがとうございます。さて、本日は都市での木づかいを体験できる、しかも現在最先端のCLTを使った施設「FOODARTS STUDIO KACHIDOKI」で、多くのみなさんにお話をさせていただけるということで大変楽しみにしてきました。端的に言えば、先ほど大臣やほかの方々からもお話がありました、林業の成長産業化と、木材の利用を進めて地域社会をどうやって元気にしていくかといったことについてお話させていただきます。特に強調したいことは、今ある人工林が利用時期に来ているということです。森林資源大国日本ということで、これはよく林野庁でいろいろと説明するときに使うペーパーですが、現在、その資源量は年間約1億立方メートルずつ増加しています。下の左側のグラフを見ていただくと、昭和50年代に比べ約2倍の蓄積量になっていることがわかります。さらによく見ていただくと、下の紫色の棒グラフ、これは人工林ですが約3倍に伸びているのです。つまり日本の森林を支えている蓄積の大きな部分は、人工林が占めている。人が植えて、作ってきた林が使える時代になったことを意味しています。もう1つのポイントは、なぜこれが使えるようになったか? それは、50年前、私たちの前の世代の人たちが植えていてくれたからです。これが大きなポイントになることを覚えておいてください。そしてこの蓄積ですが、森林の状態で1秒間に3立方メートルずつ増えています。これは丸太の状態では軽トラ1台分くらい。家で言えば8秒で一軒が建つスピードです。ずいぶん勢いよく日本の蓄積量が増えているということがおわかりになると思います。そしてこうした蓄積量を伸ばしている日本の人工林を地方で使って、きちんと地域の雇用を作りだす。そして地域の経済を活性化していくということが基本的に重要なのかなと思います。左上の写真は昭和20年の岡山県。私、岡山出身なのですが、備前焼の地域は木を燃料として使うため、ほとんど禿げ山になってしまいました。そういう場所でも今は緑が戻っている。日本全体の山が緑になっているということなのだと思います。
林業の成長産業化の加速ということで、少しお話をさせていただきます。豊かな資源を活かした林業の成長産業化に向けたポイント。大きく3つ。1つ目は会場内にもあるCLTのような新しい木材の利用・需要を満たすための、技術開発・技術革新をしていくということ。また、バイオマスなども利用して、出口対策をきちっとしていくということの重要性、これが1つ目です。2つ目は、国産材がこれまで上手くいかなかった理由を解決していかなければいけません。これはなんといっても安定供給です。全国各地にある人工林から、川下にある工場にいかに安定的に供給していくか。これは山側や流通の方でもきちっと担っていかなければいけない、重要な仕事です。これができなければ、おそらく国産材は上手くいきません。川下の方で一生懸命使うと言っているにも関わらず、山側から出てこなければ工場は回りませんから。そして3つ目は、適切な間伐などを通じて、森林が持つ多面的な機能、例えば木材供給や保養的機能をきちんと確保していく。それは、森を守り、美しく育て、故郷を子どもたちや子孫に繋いでいくことだと思っています。林野庁としては、そういったことを林業の成長産業化という形で加速化していきたい。左側に描かれた円は、植林をして、保育をして、間伐をして、主伐をして使い、そしてまた植えるというサイクルをぐるぐる回していくことを表しています。この循環は山村経済にとって、極めて重要な位置付けとなっています。
この森林資源を活かした地域づくりは、各地で始まっています。ここで2つ紹介するのが、下川町と西粟倉村。これはみなさん方も、すでにご承知の事例だと思います。特に北海道下川町の例を取り上げたのは、ここは国有地帯なのです。出井会長から国有林の整備が悪いとありましたけれど(笑)、決して悪いわけではなくて、一生懸命やっているところです。特徴としては、木質バイオマスの利用を進めてエネルギーに転換し、コスト削減に利用しています。削減したコストは地域の医療とか子育て支援、こういったものにうまく活用しており、地域住民のために木材利用をきちんと進めているという好例です。それから岡山県の西粟倉村。ここは岡山県北東側の山中にある村で、村や民間企業などが協働して、森林の保全管理、間伐材の商品化というものに取り組んでいます。これが非常にうまく回っていまして、特に農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の出資案件にも林業関連で初めて選ばれています。こうした国の動きと共に、地域がいろいろなアイデアを出しながら活性化に取り組む。そうした動きに対して、林野庁としてもいろいろな支援を行うことを考えています。
次は、公共建築物等における木材利用の拡大について。今回の木材利用出口対策として私たちが重要視している1つです。公共建築物については、平成21年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、公共建築物の木造化が推進されています。戦後、コンクリートで作られた公共建築物は限界に近づいていて、こうした建物の建て替え時に、木材利用の大きなビジネスチャンスがあるではないか。そう考えております。今日はそういう市町村の関係者の方々もいらっしゃるかもしれませんが、ぜひとも公共木造に取り組んでいただきたいと思います。
上天草市松島の庁舎、こうち旅広場、それから国際教養大学の図書館、上越市の門前にこにこ保育園。すでにこうした木造建築の事例が各地で生まれています。次に示すのが中大規模ぐらいの、ちょっと大きめの木造建築です。先日、私も大阪木材仲買協同組合の事務所を見させていただきましたが大変素晴らしいですね。カラマツの集成材にモルタル層を組み込んだ耐火集成材を使っていて、ものすごく明るい内部になっています。また通常、集成材は面で見せるのですがそれを横で見せるなど、我々では考えつかないような木の使い方がされていました。さらにここが良いのは、建物の前に桜の木があるんです。ピンクの桜越しの木の建物が非常にマッチしていて、素晴らしかったです。春に行かれることをオススメします。それから右側の建物。これは銀座にできた木造枠組壁工法による耐火木造建築です。1階部分がRC、その上4階が木造。すでに東京でもこういった建物が作られているわけなんですね。それから左下はハイブリッド集成材で作った越谷市の木造4階建てのオフィス。空間的な取り方もいいですし、非常に明るいです。また北海道の函館の大規模小売店舗ですね。すでにこうした中大規模の木造施設が各地で完成している。そういった時に重要となるのが耐火の問題ですが、耐火技術は近年飛躍的に発展していますので、今後ますますこうした技術が木造建築に活用されていくと考えられます。また人口減少化の中、地方で木材を中心とした都市づくりを行う場合も、技術革新なしにはできません。もちろんCLTを使う機会もどんどんと増えていくでしょう。中島社長からお話あると思いますが、高知県にあるCLTで作られた社員寮に、一度行かせていただきました。CLTは施工性の速さに加えて、非常に素晴らしい木材素材だと思います。こうした新しい技術革新が、木材建築物が全国に広がっていくための1つのポイントになっていくと思いますし、そのためには先ほど申し上げたような耐火の問題。(防耐火構造コンサルタントの)宮林正幸さんも今日来てらっしゃいますが、耐火はすでに十分乗り越えられる問題になっています。木が燃えるのは当たり前ですが、燃えて残りながら耐えていくという重要な性質も持っていますので、私たちとしてはそういった性質を活かし、きちんと技術開発しながら木を普及させていきたい。そう思っています。先の通常国会でも、実物大での火災実験などを行い、木造3階建ての校舎が可能となる建築基準法の改正が成立しています。国としてはどんどんと木造の分野が広がるような動きをしておりますし、CLTの利用も今後広がるだろうと考えています。
次は建築物の木造化、木質化による木材需要の積極拡大について。木造率の低い、特に都市の中小規模、中大規模の木造化という部分について、これから目指していかなければいけないのかなと。そのためにはやはり技術開発、耐火の問題に取り組んでいくということで、まだまだ我々は川下の方で努力していくことも必要ですし、川上と川下を連携するという安定供給の問題も解決しながらやっていくということだと思います。
あとはちょっと夢のある話をしておかなければいけないと思いまして、最近よく話している事例を紹介します。少子高齢化の中、地方都市の数が40年50年後には減っていくという話がよく出ています。どうやってそれを防ぐかという問題が、林業問題とは別次元にありますが、人口が少なくなった時、森林林業というのは一番貢献できるのではないか。そう思うのです。というのも、今から50年前、禿げ山だらけのところに一生懸命植林し、それがいま資源として使われています。実はいま第2の禿げ山が生まれています。それが耕作放棄地です。中山間地域は農業を中心に成り立っていますが、現在、非常に苦戦していますね。その農地、実はもともとは森林だった場所なんです。ですから、そういった耕作放棄地に植林を行うことで、再び森林化をしていく。その際に何がいいかというと、すでに農道があるんです。作業道が。非常に効率よく、林業を回していくことのできる可能性を持っています。あとはヨーロッパと比べて、日本は林道密度が低い。例えば、平地から傾斜15度未満の林道密度を高めていくことで、切り出しのコストを安く抑えることができます。こうした集中的な対応をしていくことで、林業の活性化ができるのではないか。それを安定供給と結び付けていけば、地域のエネルギーにもなるし、木材の利用にもつながるし、なんといっても今から30年後、50年後、将来の日本人が循環利用できる資源を残していくことになる。それでもしも余ったものについては輸出すればよい。世界に向かって日本の材を供給すればいいんです。それぐらいに希望を持って、夢を持ってやる。もちろん、まだまだ障害はたくさんあります。でも障害って決して乗り越えられないものではなく、強い意志を持っていれば、大きく変えることができるものだと信じています。
もう1つ、いま家の建て方が、木の柱やあらわしが見えないような工法に変わってきています。そのため役物柱のような良質な素材の需要が、残念ながらどんどんと消えています。ではどうするか。たとえば和食。やはり本物の和食は、本物の和室の中で、木の文化の中で食べていただくことが一番だということを、広めていく必要があると思っています。2020年にオリンピックが開催される時、和食は多くの外国人に食べていただくことになるでしょう。その時、日本はこうした木の文化の中で和食を育ててきたことをアピールしていくと、また新しい木の利用の仕方が広がっていくのではないでしょうか。最近よく「和室で和食」ということを言っているのですが、ヨーロッパなどでは和食が非常にブームになっていて、洋食屋さんで和食を提供する店もずいぶん増えています。でもやはり、杉の香り、檜の香りの中でいただくのが本当の、本物の和食なんです。日本の料亭で食べてみてください。そういった場所で、本当によい木の文化の中で和食は生まれたのだということを多くの人に理解していただく。そういった木の文化、日本の文化の融合を図ることも、1つのテーマだと思っています。
最後にPRです。木材利用ポイント。これは9月30日までの工事の着手が条件となっています。まだまだ若干期間がありますので、みなさんもぜひ活用いただければと思います。最後、私どもの宣伝で終わってしまい申し訳ありませんでしたが、何しろ森林とか林業、木材産業は、これからの人口減少社会の中で一番マッチする産業だと私は思っています。ぜひみなさん方と一緒に進めていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
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■ 基調報告【2】
我が国の経済成長に資する「林業復活」について
赤間 哲 (三井物産(株) 環境・社会貢献部 社有林・環境基金室長、林業復活・森林再生を推進する国民会議 / 林業復活推進委員会 委員)
「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の赤間です。今日は林業復活に向けて、この国民会議がこれまでどんな活動をしてきたかを中心に、簡単にご説明させていただきます。6月24日に日本再興戦略=成長戦略が閣議決定されまして、この成長戦略の中に「林業」という2文字が入りました。そのことについてはもうみなさんご存じだと思いますが、成長戦略の114ページを抜粋してみます。林業の成長産業化ということで、「豊富な森林資源を循環活用し、森林の持つ多面的機能の維持・向上を図りつつ、林業の成長産業化を進める」という書き出しなんですが、これが画期的なのは、まずは木を使わなければいけないということを冒頭で述べているところですね。その具体策として1番目に、先ほども中島社長から話があったCLTを大きな建物に使っていこうという、新たな用途開発について触れています。2番目は木質バイオマスの利用について。小規模な発電と熱利用ですね。いわゆるコージェネレーションによって、これまで利用されてこなかった端材や木の根っこといった木質バイオマスの利用策の提案です。加えて、セルロースナノファイバーの研究開発等によるマテリアル利用の促進ということも述べられています。マテリアル利用というのは、二酸化炭素を固着した木を、できるだけ長く人間の身の回りで使おうというコンセプトなんですね。こういうテーマが政府の成長戦略の中に入ることが、非常に画期的であると感じます。そして最後に、施業の集約化を進めること等により、国産材の安定的・効率的な供給体制を構築するということで、川下から川上の方を俯瞰するという内容になっています。これでもって、林業のサプライチェーンを完成させるということを政府が述べているんです。これも林野庁をはじめとする行政のみなさん、それと業界団体のみなさんが、これまで幾度となく訴えてきた主張が、このように政府の成長戦略として採用されたということで、お喜び申しあげる次第です。
私どもの「林業復活・森林再生を推進する国民会議」は、林業復活・森林再生を国民運動として展開するため、発起人220名、賛同者1000名以上を得て、昨年の12月18日に立ち上がった団体です。日本商工会議所の会長・三村明夫の考えである「日本の発展のためには、資源小国といわれている日本において豊富に存在する海洋資源、水資源、森林資源を活用すべきであり、特に森林資源が充実してきた今こそ、林業を復活させて地方経済の活性化を図るべきである」という考え方を基本認識としています。これまでの活動の狙いとしては、林業復活を成長戦略の1つとして政府に取り上げてもらい、しかるべき予算措置と提言実行に必要な法律の改正等について準備を進めていただくことを目的に提言活動を続けてきました。ですから、そんな私どもの活動の幾ばくかは、今回の成長戦略に林業というものが含まれる一助になったのではないか。そう感じています。
6月に政府に提出した提言の内容について、ここで簡単にまとめてみました。主題は「我が国経済成長に資する『林業復活』についての提言」。副題としては「地域GDP、地域雇用を拡大する産業創出! WOOD JOB!(ウッジョブ)」とさせていただいています。この副題の由来となっているのは、最近話題となりました映画『WOOD JOB!』ですね。これまで林業を題材とした映画というのは、私が記憶する限り1つもありません。これは林業に、みなさんの関心を向ける格好の機会だろうということで、弊社・三井物産でも、応援をさせていただきました。ただし、ディズニーの『アナと雪の女王』という映画ですか。あの作品の影に隠れてしまって、興行成績的にはやや及ばなかったと聞いていますが、それでも何十万人という人々に観ていただいたことで、林業に対する関心が、若者を中心に非常に高まったのではないかと感じています。
次がこの提言の骨子です。骨子は2つ。北海道や東北、九州、四国といった地域に、森林は多く蓄積しています。森林資源というのは地域資源なんですね。この資源を目一杯活用して、地域経済を活性化させようというのが骨子の1つ目。2つ目は森林の持つさまざまな機能。光合成や水源涵養、水産資源の保全、表土を保全するといった機能を、究極の国土保全材として、そして美しい国を保つための源として捉えようと。そのためには林業を適正に行わないと、日本の森林は荒廃してしまいます。ですから森を活かすための林業に、ヒト、モノ、カネを集中的に投下しようということを骨子にさせていただいています。
その具体策として、まずは需要拡大を図らないといけません。木をたくさん使う、それも国産材を使うということをしなければなりません。加えて、循環可能な資源として、木を切った後には植えなくてはいけない。循環的な活用が必要です。また、需要は待っていても出てきませんから、新規の用途開発というところにまで踏み込んでしっかりと需要を作り出す。こういったことを具体策として訴えています。そのいい機会になるのが、みなさんさんもう何度も耳にしていると思いますが、東京オリンピック、パラリンピックの競技施設、選手村等の関連施設です。これらを国産材利用のきっかけにしたらどうなのかと。CLTや大断面集成材などを活用して建物を建てる。そして、内装には無垢のスギやヒノキなどの国産材をふんだんに使い、和の空間というものを作り上げて、国内外に示していくのです。あとはいまさらですが、都会のオフィスを中心とした中高層の建物の木造化、内装の木質化ができないだろうかという提言を、具体策として訴えています。
繰り返しになりますが、やはり東京オリンピック、パラリンピックというのは建築物を木造化する、内装を木質化する、和の空間を外国人に示すための絶好の機会です。国際大会ですからいろいろな方々が諸外国からいらっしゃいます。和の空間を中心に、日本の伝統技能に基づいた木造建築や、内装空間のあり方、木を使った空間というものを外国人に印象づけ、その空間を買いたい、輸入したいと思ってもらうきっかけにしたいということなんです。
それではなぜ私が、しつこいくらいに日本で木を使わなければいけないと言っているのか。ドイツと日本の状況とを比較してみましょう。ドイツの人口は8200万人、日本は1億2600万人です。森林面積はドイツが1100万ヘクタール、これは日本の2分の1以下です。ただし木材生産量は、ドイツが約6000万立方メートル、日本は2000万立方メートル。面積的には2倍以上あるのにも関わらず、木材の生産量は3分の1です。それと伐採搬出コストにも大きな開きがあります。現地で木材を切ってそれを搬出するのにかかるコストが、ドイツは立方メートルあたり約30円。日本の場合は間伐から皆伐までいろいろな状況があるので一概には言えないのですが、大体5000円から1万円くらいというレンジにある。日本の山というのは木材を切り出すに非常にお金がかかるということなんですね。それと製材工場の数。年間に10万立方メートル以上を生産する工場数を数えてみました。2006年、2007年の数字なので多少古いですが、ドイツには60社ありました。日本の場合には、指折り数えてみても10社しかありません。という具合に、もう圧倒的な川中の競争力というところで差がついています。それと、ここで一番伝えたいのが黄色の部分ですね。木材消費量、ドイツでは1億1000万立方メートルあります。これにはまとまった統計がないので、弊社の担当者がドイツに通って数字を集め、業界関係者からいろいろな話を聞いて、推定した数字だとご理解ください。この1憶1000万立方のうち、5000万立方は木質バイオマスとしてサーマル利用されます。残った6000万立方メートルがいわゆるマテリアル利用。人間の周りで使われている木の利用です。かたや日本。消費量は7100万立方メートルあるのですが、日本というのは特殊な国で、このうちの3000万立方メートルを木材チップとして輸入して、すべてを紙に加工しています。これはちょっとマテリアル利用と言えないのでは、ということで、その分の数字を除くと、人間の周りに使われている数量としては4000万立方メートルしかありません。1人頭の数量で言えば、日本人はドイツ人の半分も、木を使っていないのです。そのくらい差が付いてしまっている。その理由としては、日本人の建築が、RC、鉄筋コンクリートに舵を切ってしまったことが大きいと感じます。
ちょっとその説明の前に、このCLTの構造物について紹介させてください。3、4年前にドイツに行った時、すでに8階建てのマンションがCLTで作られていました。日本ではCLTなんて言葉もなかった頃です。それとドイツでは、床や天井といった内装はもちろん、外装にもたくさん木が使われています。話が前後しましたが、なぜ日本がこれだけ木を使わなくなったかということについて、歴史も踏まえながら簡単に振り返ってみます。下の表は、左側が日本の木材生産量、右側が日本の木材消費量、2つは同じスケールでできています。縦は数量、横は1955年から2011年までの年代ですね。日本の木材生産量のピークは昭和32年の6800万立方メートル。日本でもこれくらいの木材生産がありました。昭和30年代はだいたい6000万立方ほどですね。ところが消費の方を見てください。日本人が最も木材を使ったのは昭和48年の1億2000万立方メートル。しばらくの間、1億立方メートル以上を消費していたことがわかると思います。このように、日本は木が必要だった時代、国産材の供給が追い付いていなかった。生産に対して消費が倍ですから、これ以切り続けると、日本の山が裸山になってしまう、そういう危険な領域だったわけです。つまり必要な時に国産材が間に合わなかった。それが今は、国産材がものすごく充実して使える時期なのに、需要が減ってしまっているということで、需給のミスマッチが起きている。こういったことも、林業が衰退してきている1つの原因です。さらにそれに輪をかけて、日本の政策もどんどんと木を使わない方向に行ってしまった。1950年代には、耐火・防災性能を向上させるという理由から、鉄とコンクリートの建築に移行する法律が次々と生まれました。1959年には建築学会が木造の禁止決議を行い、大学は木造建築を教えるのをやめてしまったのです。ですから現在の一級建築士で、木で設計ができる方というのは極端に少ないんです。この時代の政策が、後の需要ギャップを作り出す一因にもなってしまいました。さらに木材が足りなかった日本は、1951年に丸太の関税を撤廃。1964年にはすべての木材製品の輸入を完全自由化しました。当時は日本の林業をほとんど顧みることなく、マーケットを開いてしまったんですね。ですから現在のTPPも、日本の産業ということについて十分熟慮してから、市場を開くべきだろうと個人的には思います。
最後にオフィスの木づかいの事例について紹介します。まずは京橋にあるイトーキさんの施設。「SYNQA」という名前で運営されていて、一般の人も立ち寄れるようになっています。ぜひ機会がありましたら、ご覧いただければと思います。それと及ばずながらですが、弊社本社の1階のロビーに、社有林材で作られたイスやテーブルを並べています。3年ほど前にいまの形にリニューアルしたのですが、木のスペースにしてから利用率が大変高まっています。昼休みだけでなく、就業時間中もくつろげると好評で、これも木の持つ効用なんだろうと感じています。それから、私の所属する環境・社会貢献部の内装も、キャビネットの天板を木にしてみたり、壁に木のデコレーションを施してみたりということをしています。そうすると、多少ギスギスした会社の雰囲気も少し柔らかくなるんじゃないかと(笑)。オフィスは競う場所だとすれば、あまり木(気)を使わないほうがよいのかもしれませんが、まぁ、仕事のチームワークもよいに越したことはありません。
ということで、私の話のまとめとしては、今こそ民間企業が、特に都会の事務所で木を使うということを、率先して始めてみてはいかがでしょうか。森林の保全に取り組まれている民間企業はたくさんあります。ところが保全しても、切って出てきた木を使う場所がなければいけない。その用途というのが、都会のオフィスでの木づかいということなんだろうと思います。
■ 基調報告【3】
里山と都市をつなぐ木材の可能性
中島 浩一郎 (一般社団法人日本CLT協会会長、銘建工業株式会社社長)
CLT協会の中島です。新しい木材が出てきたということで、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、今日はその話を中心にさせていただきます。本当に、都市と山村がいろんな意味で繋がっていないといいますか、過疎と過密は本来同じことなのですが、過密の方がものすごいスピードで進んでいますので、何とかそれを、木材を通して繋げていきたいと考えています。
これは2年ほど前にシベリアで撮った写真です。見渡す限り、天然林がずっと広がっているわけです。
ここ、ちょっと写真では見づらいのですが、木くずを捨てていましてね、ざっと見ても10万トン以上ある。シベリアには木材はあるし、電気、水もかなり自由にあるので加工はできるんです。ところが製材してチップを作ったとてしても、製紙工場は800キロメートル先にあると。トラックで持っていこうとしても燃料代だけで終わってしまいます。それからヨーロッパでは暖房にペレットがよく使われるのですが、シベリアには人があまり住んでいないので、地元での消費は少ないんです。そうなると遠隔地に売りに行こうとするのですが、サンクトペテルブルクまでは鉄道で約4000キロメートル。これも運賃だけで終わってしまいます。つまり何が言いたいかというと、資源があるということは非常に大事なことなんですが、地域内に需要や消費がなければまったく活きてこないんです。日本でも「我が町には森林がたくさんあります」と話す町長さん、たくさんいますが、それよりもどうやって使うんだと。それができない限り、山、森は資源でも何でもありません。
シベリアの話が他人事かというと、決してそうではありません。日本でも、木材を伐採する時に出た枝や曲がった木、使い物にならない木は森に捨てられています。たとえば、私どもの真庭市では1万キロワットの発電所を来年4月から稼働しますが、木くずや間伐材が10万トンもあれば、1年間、約5万人弱の一般家庭用電気をすべてまかなうことができます。シベリアにはこういった仕組みができていないものですから、無駄な山が10も20も放置されている。ですから、本気で木を活かす仕組みが必要になってくるわけです。
その1つの方法、新たな用途になり得る素材がCLTです。木材には変わらないので、その性格が大きく異なることはないのですが、これはクロス・ラミネイティド・ティンバーといって、木のパネルを縦横に貼り合わせていきます。そうすると、これまで木材では不可能だった大きな板面、現在、作っているものですと、長さ6メートル、幅2.7メートル、厚さ30センチほどの大きさのものができあがります。これを使うことで、さまざまな建築物が木材で作れるようになるのです。
さらにCLTは、非常に強度にも優れています。2012年には、つくば市にある防災科学技術研究所で振動台実験を行いました。
3階建ての建物に5階建て相当の荷重をかけ、阪神・淡路大震災クラスの強さで揺らしたところ、まったくびくともしませんでした。公開試験で100名近くの人が見ていたのですが、壊れないのではちっとも面白くないんです(笑)。目的は耐えられる強度を測ることですから、壊れないことには測れないんですね。そこで地震波をどんどん増幅させていったのですが、国交省の担当者が途中でストップをかけました。屋上に載せた荷重用の鉄の重りが揺れで飛んでしまったら、実験場自体を壊してしまう恐れがあったからです。それくらい揺れには強いことが明らかになったので、翌年は建物の横から力を加える加力実験を行いました。これは巨大なシリンダーで建物を左側から強制的に押して、倒壊させようという実験です。実験は夕方くらいまでには終えるつもりで、土曜日の午後1時過ぎにスタートしました。ところがまったく壊れない(笑)。力をかけている時、建物は歪むのですが、シリンダーを戻すと元に戻ってしまうんです。何度やっても。結局、完全には壊れないまま、最終的に実験をやめようとなったのが次の日の午前2時過ぎでした。最近、イタリアでは6階建て、7階建てのCLT建築がバンバン建っているのですが、そんなイタリアは日本と同様、地震国です。地震にも圧倒的に強いということで、イタリアの専門家は「CLTを使えば生命だけでなく、財産すべてを守れる」という言い方をされているのですが、まさにその通りだろうと思っています。
それから、CLTは燃えにくいとありますが、もっと言えば燃え広がりにくいということなんです。木材は紙のようにペラペラだとすぐに燃えてしまいます。ですが、厚みを持ったCLTのような木材は、1分間に燃える速度が計算できる。用いられる樹種によっても多少異なりますが、大体0.7とか0.8ミリメートルとかが相場です。1分で0.7ミリメートルとすると10分間では7ミリメートル。100分燃えても70ミリメートルです。ということは、壁の厚みが25〜30センチメートルはありますから、それが7センチ燃えたところでまったく構造には影響しません。これは実際の写真です。左側は1210度で燃えていて、その反対側に人が寄りかかっています。熱をまったく伝えませんから、寄りかかっていても熱くも何ともない。しかも、燃やし始めて60分経っている状況でこれです。ですからパラドックスな話ですが、木は燃えるけれども燃え広がらない。燃える速度は計算できる。計算できるというのはすごく大事な話で。次の写真はドイツでやった実験で、実際にビルを燃やしています。ある部屋に火を付けてから、70分、80分経っているところだと思うんですが、燃えている隣の部屋はで温度がまったく変わっていないんですね。ということは、その間に避難が十分できるんです。鉄の場合、700度を超えるとゆがんできて、建物が倒壊する恐れがあるのですが、CLTはこのように燃え広がりにくいという性質を持っています。
そしてCLTは木材ですから当然軽いです。大体コンクリートと比べると5分の1以下の比重です。これはイギリスにある8階建ての建物ですが、総重量は鉄筋コンクリートで建てた場合に比べて62%も軽い。たった38%の軽さでこの建物が構成できるんです。軽いということは、基礎部分に対する負担も減ります。減った負担がそのままコストに転嫁できるわけではないですが、このビルのケースでは、基礎工事費用が通常よりも25%安くなったそうです。この軽さというのは21世紀のテーマであると思います。輸送する際にも軽いということは大変に有利です。このように、木材は昔から使われている材料ですけれども、強さ、軽さを備えた非常に優れた素材なのです。
もう1つ、CLTは施工が本当に早くできます。これは外国の写真なんですが、こういった大きなパネルを吊って、重ねて作っていきます。組積造というのは、これまで日本では存在しなかったと思うのですが、CLTが認められると、初めて積んでいくという工法が可能になるわけです。
施工中の写真は、国交大臣の特別な許可を得て、日本で初めてCLTを構造躯体として使用した「高知おおとよ製材」の社員寮です。先ほどの沖さんの講演でも完成図が出ていましたね。3階建ての建物なんですけれども、CLTの施工日数はわずか2日間で完成しました。これにはみなさんビックリされます。コンクリートの場合、早くてもひと月はかかりますが、CLTですとケタ違いのスピードが実現できるわけです。現在の基準では、外壁に木をあらわした構造は認められていないために塗り壁にしていますが、技術的には、外壁を燃えしろ設計することもできるはずで、木をあらわしながらでも使えるようになったらと思っています。
それからこれはヨーロッパの例で、そのまま日本で実現できるかはわかりませんが、7階建て、8階建て、メルボルンではいま10階建てぐらいまでのビルが建っています。今年はバンクーバーで、12階、13階のビルが建つような話も聞いています。このCLT建築の接合部には、長いビスが使われていて、単純かつ長持ちする構造で、これによって現場の負担が大変少なくなります。
先ほど、片側が1200度で燃えていて、その逆側に寄りかかっているという写真を見ていただきましたが、熱くならないということは、木材の熱伝導が悪いということを意味しています。それは木材が組織の中に空気をたくさん含んでいることの裏返しなのですが、コンクリートの12分の1、鉄の1000分の1の熱伝導率ということで、断熱材などと一緒に使えば、非常に省エネ性能に優れた住宅、建物をつくることができる。そういったものにもCLTは向いているというわけです。
このCLTは、1995年くらいからヨーロッパで実験が始まり、2000年に入って、実際に使われ出しました。1990年代、ヨーロッパでは、伝統的な建築などは除き、3階建て以上の木造建築は原則禁止されていました。それが2000年になると、少しずつ3階建て、4階建ての建物が増えだしました。国によっても違いますが、現在は多くの国で、5階建て以上の木造建築が許可されるようになっています。
多くの方々は、ヨーロッパは石の文化、それに対して日本は木の文化だというような理解があると思います。しかし、昨年末に出た『木材と文明』という本では、ヨーロッパは木材の文明だったという、驚きの内容が語られています。シェイクスピアの時代、日本では江戸時代の初期ですけれども、ロンドンの街はすべてほとんどが木造でした。ところが1666年に大きな火事が起きて、ロンドンでは街の85%が焼失してしまったのです。その後、街の復旧に石が使われ、復興や都市化が進むに従って、燃料としての木の需要が高くなっていったことで、木造建築は姿を消すことになりました。それが最近になって、「ヨーロッパこそが木造の本流である」ということが言われはじめた。こうした歴史の背景があって、さらに日本と同様、第二次世界大戦後に植えられた木が十分に育ってきたことで、木の価値が見直され始めたんですね。もともと木は、身近にあって、耐久性はあるし、生活環境にも潤いを与えてくれるということで、人間にとっては大変なじみのよい素材です。こうした面が再評価され、「新しいルネッサンス」なんて書かれていますけど、ヨーロッパでも木を使おうという動きが本格的化しています。
我々も、そのヨーロッパの人たちも、いろいろな意味で木を使おうということで着手しているわけで、必ず実現できる。できないわけがないという結論で話を終えたいと思います。1961年の5月25日に、今後10年以内に人間を月に着陸させると宣言した人がいます。ご存知、ロバート・ケネディ大統領です。このケネディ大統領の言葉、その時点では、何の根拠も見込みもない発言だったと言われています。当時のアメリカは、宇宙開発で、ソ連に完全に後れを取っていたためライバルのソ連が次々と宇宙開発に乗り出したものだから、このままでは格好がつかないということで言ってしまった。ところが宣言したらですね、NASAにどんどんと優秀な若い研究者が集まってきて、月に行くぞという話で盛り上がるわけです。その結果、宣言通り1969年7月20日、人類初の月面着陸が実現しました。本当に10年かかっていません。
私たちの取り組みと、月に行くという話。どちらが簡単かということではないのですが、木材をどんどん使っていけば、森にもどんどんと投資もできて、新たな植林ができる。この循環ができれば、本当にいろいろなことが変わってくるわけです。現在、木材の成長度は1年間に1億8000万立方メートルといわれています。一方で、伐採している木材は3800万立方メートル。4分の1も切っていません。我々はもっともっと木を使う必要があります。
木の新しい使い方として、ビルにも使えるようなCLTもできています。それから新しい燃料の使い道、エネルギーの使い方、これも技術革新できるだろうと思っています。その一方で、薪はいまヨーロッパで非常に重宝されていまして、出井代表の別荘は薪ストーブですか? 炎を楽しむというのは本当に豊かな文化で、ワインともピッタリだと言われていますけども。生活文化を楽しむということも含め、木材がいろいろな生活の局面で使われることによって、我々の生活は前に進む。そう考えます。
真庭市では来年4月から1万キロワットの発電所が稼働します。未利用材や端材などの燃料購入費として、年間に13億円、地域の山や製材所に支払うことを想定しています。13億円のうち約10億は人件費。田舎にとって10億円の人件費は大変大きなものです。そういったことがエネルギー資源やCLTを使えばどんどんできる。木材には、月に行くのと同じくらいの希望があるぞということで、私の話を終わりたいと思います。ありがとうございました。