『2020年へ向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』〜デザインと異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい〜平成25年12月12日(木) 14:00〜16:30 「東京ビックサイト」レセプションホールA 開催趣旨我が国でオリンピック・パラリンピック大会が開催される2020年は、気候変動枠組み条約に基づく京都議定書第2約束期間及び生物多様性条約に基づく愛知目標の最終年です。 このため、国土の約7割という世界でもトップクラスの豊かな森林を有し、古くから「木の文化」を育んできた我が国が、2020年という節目の年に、森と木を活かした「グリーン・エコノミー」の創出による持続可能な社会づくりを発信すれば、内外の大きな注目が集めるものと考えられます。 近年、森林・林業分野においては、多様な行政施策が展開されるとともに、幅広い業種の民間企業等が国産材の活用への関心を高めており、新たな技術の開発やデザインを生み出すことにより、森と木を活かした多様なライフスタイルが提案されています。 そこで、デザインや異業種との連携の視点から、森と木を活かした新たな商品・サービスに関する最前線の取組を紹介しつつ、2020年に日本から世界に発信することが期待される、森と木を活かした「グリーンエコノミー」の展望と課題について議論するシンポジウムを開催しました。 プログラム開会挨拶宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授) 末松 広行 (林野庁 林政部長) 基調講演「新時代の森と木を活かすエコプロダクツ 〜グッドデザイン賞等を事例に」 益田 文和 (東京造形大学教授、(公財)日本デザイン振興会理事、(株)オープンハウス 代表取締役、エコプロダクツ2013「エコ&デザインブース大賞」審査員) 「感性価値デザインと新時代の森と木を活かすデザイン〜キッズデザイン賞等を事例に」 赤池 学 (科学技術ジャーナリスト、(株)ユニバーサルデザイン総合研究所代表、(特)キッズデザイン協議会 キッズデザイン賞 審査委員長) 話題提供「経済界と森林・林業・木材業界の連携で生み出す「グリーンエコノミー」〜「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の立ち上げ〜」 高藪 裕三 ((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事) 「木のやすらぎと、森のめぐみを、次の世代へ 〜国産認証材を活用した都会を中心とする木づかい促進」 赤間 哲 (三井物産(株) 環境・社会貢献部 社有林・環境基金室 室長) パネルディスカッション「2020年に向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」の展望〜デザイン&異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい〜 <モデレーター> 宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授) <パネリスト> 益田 文和、赤池 学、門脇 直哉((一社)日本プロジェクト産業協議会 常務理事)、赤間 哲、末松 広行(林野庁 林政部長) ■ 話題提供経済界と森林・林業・木材業界の連携で生み出す「グリーンエコノミー」 〜「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の立ち上げ〜高藪 裕三((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事) ご紹介いただきました、JAPICの高藪です。あまり名の知れない団体ですのでご存知でない方も多いと思いますが、創立35年を迎え、会長の三村明夫はこの12月に日本商工会議所の会頭に就任いたしました。その三村自身が、「日本のためになることは何でもやる」ということを標榜し、様々なプロジェクトに取り組んでいます。 6〜7年前から最も力を入れているのが、林業復活、森林再生というテーマです。日本が現在の豊かさを持続していくために必要なのは、国土が保有するポテンシャルを最大限活かすことです。ひとつは、EEZ(排他的経済水域)の海底資源開発。日本の排他的経済水域は世界で6番目に広いのですが、その海底に豊富な資源を持っています。JAPICの試算によると、現在の価値で300兆円以上になります。そのような海底資源をできるだけ早く堀り、日本の資源にすることが一つ。二つ目は、豊かな降雨による水資源をきちんと使うようにすること。三つ目が森林資源です。 JAPICは正式には産業協議会ですから、森林問題も産業論として扱いたいと思っています。産業論としての現在の林業は、日本のGDP比率の0.07%であまりにも小さい。したがって、アベノミクスの成長戦略論や民間の方々で構成する産業競争力会議でも、ほとんど林業という産業が話題になることはありません。我が国の豊富な木材を経済に有効な資源とみなしていないということではないかと思うのです。これは明らかに政治や政策の間違いであると思っています。私どもはこのことを政治や行政、経済界に訴えるだけでなく、広く一般の国民の方々にも知っていただこうと、この度の行動を起こしたわけです。 「林業復活森林再生を推進する国民会議 ―林業復活による地方活性化と国産材資源の有効活用に向けた1000人委員会」、この第1回目のキックオフを、12月18日に丸ノ内の会場で開催します。ご来賓に安倍総理、林農林水産大臣をお迎えして行います。安倍総理は現在予算の時期で、当人を含めてお願いしていますが、まだ出席がわかりません。林大臣は冒頭ご挨拶の末松部長にお願いしていただいているところです。 主催はJAPICですが、共済に美しい森林づくり全国推進会議、国土緑化推進機構、後援は経済団体とありますが、日本商工会議所、日本経団連、経済同友会、全国の北海道地方経済連合会から九州経済連合会まで地方の経済団体ほとんど全てにご後援をいただくことができました。まさに産業界、経済界あげてこのテーマに取り組んでいきたいと思っています。 議事次第については、主催者はJAPICの運営する日本創世委員会の委員長である寺島実郎さんなど準々にお話しいただきます。パネルディスカッションは、パネリストとして草野満代さんにお越しいただきます。草野さんはフォレストサポーターズのお一人で、大変お詳しい方です。行政からは沼田林野庁長官に加わっていただきます。 最後の3番目に日本商工会議所の三村会頭の就任挨拶とあります。その抜粋です。「産業としての林業復活は地域活性化の有力な対策です」。たったの一行ではありますが、日本商工会議所のように全国126万人の会員をもつ大きく伝統ある組織が、施政演説方針に「林業復活」という言葉を入れたこと自体が強いインパクトを持っているとご理解いただくといいのではないかと思います。 これが、林業復活国民会議の理念です。内容は繰り返しになりますが、一般の方々には、美しい森林を守ることは当たり前だけれども、なぜせっかく植えた木を伐るのかがよくわからないかと思います。実際には、育成されている木と国内需要はほぼミートしていて、自給率は理論的には100%ですが、70%を輸入しているという事実をほとんどご存知ありません。我々の役目としては、このような基本的なところを理解していただくように訴えていくことではないかと思っています。 もう一つ強調したいのは、林業という産業は非常に裾野の広い産業ですから、山の中だけでなく川中、川下のほうにも大変広い産業です。地域に雇用を産み、地域が活性化する、限界集落や過疎地といわれている場所に若者が定着し地域が活性化されるかもしれません。政府の地域活性化策を見ていると、二次産業を持っていこうという話が多いのですが、現実にはなかなかそうはなりません。一次産業をもう一度見直すことが私たちの基本的な考え方となっています。 最後は、産業教育が先ほど1000人委員会と申し上げましたが、ぜひご登録していただき、大きな数にして、あまり興味を持たない国会議員の方々にも強く訴えていきたいと考えています。ぜひご協力をお願いしたいと思います。 ご清聴ありがとうございました。 木のやすらぎと、森のめぐみを、次の世代へ〜国産認証材を活用した都会を中心とする木づかい促進赤間 哲(三井物産 環境・社会貢献部社有林・環境基金室 室長) 三井物産の赤間です。本日は、当社の取り組みを中心に、日本の木づかいの促進について説明申し上げます。 弊社三井物産は全国74カ所、合計で4万4000haの山林を所有しております。民間事業者としては3番目に面積の大きな社有林を保有している会社ということになります。この4万4000haの山林で弊社は、明治時代から林業、木材を育てて収穫し、丸太にして販売するという林業を続けてきています。林業を続けている立場として、昨今の日本の木材産業の課題・問題点に直面しています。今我々ができることは、日本人がもっと国産材を使っていくことだろうと思い、いろいろな活動を展開させていただいています。 はじめに、なぜ国産材がこれほど使われなくなったのかについてご説明します。グラフ左側が、日本の木材生産量です。右が木材の日本の消費量です。これを対比してみました。横軸が年代で、昭和30年から平成23年までの統計をとっています。縦軸は木材をはかるときの立法数です。 見ると一目瞭然で、昭和30年代の10年間ほど、日本は木材を約6000万m3ほど伐採していました。ピークは昭和32年で、6700万m3を日本の山から生産していました。右の表では昭和30年代は6000万m3を少し出るくらいの消費量で、国産材の率はほぼ100%に近い。昭和40年代に入っても、8000万m3弱の木材を消費していますから、国産化率は80%ほどありました。 それが、昭和40年から50年代にかけてぐんと消費量が増えています。日本の木材の消費量ピークは昭和48年、1億2000万m3使ったときです。時を同じくして昭和48年には住宅着工数が191万戸でした。今年は100万戸ほど住宅着工していますので、2倍の勢いでした。戦後の復興で住宅が必要とされていた時期です。 左を見ると、昭和42年くらいになると6000万m3を切るほどの生産量になっています。つまり日本の木材の供給は需要に追いつかなくなっていたのです。日本人は木が必要な時にどうしたのかというと、全部輸入に頼っていたわけです。昭和48年に1億2000万m3を使ったときは、約1億m3弱の木を海外から輸入していたということになります。昭和30年から40年ごろに6000万m3ずつ木材を伐採していたのですが、この勢いで伐採を続けては、日本の森林資源は枯渇してしまうというギリギリのところだったのです。我々はこれを需給のミスマッチと言っていますが、必要な時に国産材がなかったのです。 1960年に日本の政府は木材の輸入関税を原則撤廃しています。輸入品をどんどん入れなければいけない状況にありました。その後は、折からの円高、日本の高度経済成長でどんどん木が使われました。1990年くらいまで、1億m3を超える消費がされていました。その消費を支えていたのは主に輸入材だったわけです。 需給のミスマッチで、使う時に日本の材がなかった。その時日本は何をしていたというと、昭和30年代から40年代、日本の政府は、森林資源は日本の重要な資源だということで、大造林政策をとりました。伐ったあとに木を植えるということを国民運動的に行ったのです。しかし、その木は50年しなければ使えるようになりません。森林資源の枯渇を心配したこともありますし、日本人は地震や空襲などで木の家が燃えてしまうというトラウマもありました。したがって、木を使うということの抑制を始めます。建設省を中心に、「都会のビルはコンクリートと鉄とガラスと樹脂でつくる」という政策を取りました。防火対策ということで、木をビルに使うことから締め出したのです。それに呼応した形で、1959年、日本の建築学会で「木材建築を学校で教えることをやめる」という決議までしています。現在、国産材を中心に木材を使っていこうという時に、日本の一級建築士で木造の設計をできる方が少ないのです。鉄筋の設計はできても木造の設計をできる人がいないという状況になっています。国産材も然ることながら、木を使わない生活に日本人は舵を切ってしまったということが言えると思います。 日本の木材産業の問題点を3つ並べてみました。第1に、日本人は身の回りに木を使うことが少なすぎるといえます。国産材を中心に木材をもっと身の回りに使うべきでしょう。 2番目。国産材の加工競争力が不足しています。あとにも示しますが、日本の製材工場は小規模で海外の製材工場との競争力が全くありません。こういう川中の製材工場の競争力アップも喫緊の課題です。 3番目。木材をうまく使い切ることもしていません。木材のバイオマス利用は昨今言われていますが、ドイツでは2〜3年前に5000万m3もバイオマスとして燃料に利用しています。日本にはバイオマス利用の統計すらありません。少しは使っていますが、統計を取る程の数字になっていないということです。そのくらい、木材を使い切るということもできていないのです。 日本の木材産業の課題は、川上も川中も川下もそれぞれ重大な課題を抱えていて、この3つの課題を同時に解決しない限り日本の木材産業は再生・復活しないだろうと思います。川上はもちろん林地を集約化して効率的に行うこと。川中はやはり産業力を強化すること。製材工場の数を増やすことではないかと思います。川下は需要の拡大です。 これを、林業が非常に盛んなドイツと比較してみました。2009年当時の数字で多少古くなっていますが、ドイツは人口8200万人の国です。日本は今、1億2600万人です。木材生産量はドイツでは6300万m3を国内で生産しています。日本は1700万m3です。昨年度もこのくらいの数値でした。ドイツの生産量の3分の1以下です。しかし、山の面積は、ドイツは約1000万ha、日本は2500万haもあります。 ドイツの製材工場の数は年間に10万m3加工する製材工場、かなり大きな製材工場が60社あります。日本はたったの7社です。この数字ですが、昨今はアップデートされていて、木材新聞を読んでいると、5万m3以上を加工する日本の工場の数が43社と出ていました。10万m3では十数社に増えています。 消費量は、ドイツでは1億1000万m3の木材を国内で消費しています。日本は7000万m3です。ただこの7000万m3の中の約3000万m3は製紙用チップです。80%はオーストラリアやブラジルからチップの状態で輸入しています。製紙用チップはすぐに薬剤と一緒に煮て、木材の中の炭素の塊であるリグニンを分離します。そのリグニンは燃やしてしまうわけです。すなわち、木材が光合成で固着した炭素を製紙の場合は燃やしてしまっているのです。3000万m3の数字は日本人が身の回りで木材を使うということにカウントできないと私は思っています。そうだとすると、日本人が身の周りで木を使っている数量はたったの4000万m3です。これは、ドイツ人が一人あたり使う量の2分の1以下ということになります。そのくらい日本人は木を使わなくなっているということがわかります。 これはドイツの木づかいの例です。8階建てのマンションでも、躯体から中身まで全て木です。こういうことができます。ドイツではやっています。家の外装でも、ヨーロッパは石造りの家が多い印象がありますが、外装まで木で作った家がヨーロッパでは最近とても多くなっています。ヨーロッパの人たちは自然との共生を生活の基本に置いているので、身の回りのものは自然のものがいいということを自然に行います。 ドイツの場合、バーデン=ヴュルテンベルク州に通称黒い森というドイツの森林地帯があります。ところが、木を使うということであれば、隣のバイエルン州です。オーストリアと国境を接していて、ドイツの木づかいのメッカです。こういうところを見るべきだろうと思っています。 木を使う際の基本ですが、木は余すことなく使う。まずは人間の身の周りで使うマテリアル利用を優先して行うこと。どうしても使えないものについては燃料にして、やむを得ないけれども燃やしてしまう。隅から隅まで利用することが大切だということです。 弊社の木づかいにおける取り組みを最後に説明します。これは、私どもの大手町本社ビルの1階ロビーです。2〜3年前までは非常に殺風景なスペースでしたが、そこに社有林材を利用した待ち合わせスペースを展開しました。大きな壁があり、そこに原寸大の社有林の林層の写真を貼り、あたかも森の中にいるかのような空間を演出しました。利用者が非常に増えて、木に囲まれる空間の心地よさを皆様に体感していただいています。 これは私どもの部内の執務空間です。このように、壁にデコレーションも加味した木のパネルを貼り付けています。厚さ3センチのスギ材です。調湿作用があり、木の香りもしてずいぶん雰囲気が変わりました。このような空間にして何が変わったかを広く訪問される方や部員にアンケート調査をして、効果を検証してみたいと思っています。 このようにしてでも日本人は木を使うべきではないでしょうか。特に都会の執務空間です。皆さんも自分の事務所を想像していただけば、いかに木を使っていないかということがおわかりいただけるかと思います。 そのほか、私どもが行っている木づかいの促進運動としては、今年8月に林野庁にも後援いただき木をつかうフォーラムを日経ホールで開催しました。木の利用ということでは日本の第一人者である東大の安藤直人教授にファシリテーターをお願いして、たくさんの皆様に好評をはくしました。今年の9月からは慶應義塾の湘南藤沢キャンパスでForest Products論という講座を開設しました。こちらも東大の安藤教授にご就任いただき、木の利用と木造建築の川下を中心にした大学の講義をしていただいています。来年1月まで継続します。慶応の学生の人気も非常に上場で、来年も続けて行ってくれないかということを慶應から言われています。このような啓蒙活動も行っています。エコプロダクツ展でも、小学生を招いて環境授業を行っているブースがありますが、そこで弊社の森林における活動をご紹介する出前授業を展開しています。お時間がありましたらご覧いただければと思います。 そのほか、国産材の利用を促進するということで、2×4という建築方法があります。アメリカのSPFという樹種が指定されていて、日本のカラマツやスギなどの材は基本的には使うことができません。樹種の指定から外れると、年輪を目視し、年輪幅が広い場合は使えないとみなしてはじかれてしまいます。こうした指定を外してもらい、日本のスギやカラマツも2×4に使えるようにしようということを、産業界一丸となって農林水産省や国交省の皆様にお願いしています。 そのほかには、震災の復興で社有林を使った支援を展開しています。ご縁のあった陸前高田市に仮設の木造図書館を寄付させていただきました。また、その図書館を作ってくださった方が気仙大工と呼ばれる江戸時代から連綿としてつながる大工さんの集団の方でして、ご多分にもれずその大工集団も高齢化と後継者不足に悩んでいらっしゃいました。そこで、それをご支援しようということで、気仙大工建築研究事業協同組合に寄合所を寄付させていただき、今後の復興住宅を作っていただきながら担い手事業等を展開する支援を行っています。こうした活動も、国産材利用の出口戦略のひとつです。地域材を使うというサイクルにつながっていけばいいなと思っています。 今年、我々の活動を汎用の広告にまとめました。北海道の沙流山林でとれたカラマツの年輪です。54年生です。それを時代の変化になぞらえて、もっと木を使おうではないかという広告です。日刊工業新聞の産業広告部門で佳作をいただいています。このような形で、日本人はもっと木を使うべきではないかという活動も繰り広げています。 弊社の活動をご報告申し上げました。ご清聴ありがとうございました。 |
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