|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() 『2020年へ向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』〜デザインと異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい〜平成25年12月12日(木) 14:00〜16:30 「東京ビックサイト」レセプションホールA 開催趣旨![]() 我が国でオリンピック・パラリンピック大会が開催される2020年は、気候変動枠組み条約に基づく京都議定書第2約束期間及び生物多様性条約に基づく愛知目標の最終年です。 このため、国土の約7割という世界でもトップクラスの豊かな森林を有し、古くから「木の文化」を育んできた我が国が、2020年という節目の年に、森と木を活かした「グリーン・エコノミー」の創出による持続可能な社会づくりを発信すれば、内外の大きな注目が集めるものと考えられます。 近年、森林・林業分野においては、多様な行政施策が展開されるとともに、幅広い業種の民間企業等が国産材の活用への関心を高めており、新たな技術の開発やデザインを生み出すことにより、森と木を活かした多様なライフスタイルが提案されています。 そこで、デザインや異業種との連携の視点から、森と木を活かした新たな商品・サービスに関する最前線の取組を紹介しつつ、2020年に日本から世界に発信することが期待される、森と木を活かした「グリーンエコノミー」の展望と課題について議論するシンポジウムを開催しました。 プログラム開会挨拶宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授) 末松 広行 (林野庁 林政部長) 基調講演「新時代の森と木を活かすエコプロダクツ 〜グッドデザイン賞等を事例に」 益田 文和 (東京造形大学教授、(公財)日本デザイン振興会理事、(株)オープンハウス 代表取締役、エコプロダクツ2013「エコ&デザインブース大賞」審査員) 「感性価値デザインと新時代の森と木を活かすデザイン〜キッズデザイン賞等を事例に」 赤池 学 (科学技術ジャーナリスト、(株)ユニバーサルデザイン総合研究所代表、(特)キッズデザイン協議会 キッズデザイン賞 審査委員長) 話題提供「経済界と森林・林業・木材業界の連携で生み出す「グリーンエコノミー」〜「林業復活・森林再生を推進する国民会議」の立ち上げ〜」 高藪 裕三 ((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事) 「木のやすらぎと、森のめぐみを、次の世代へ 〜国産認証材を活用した都会を中心とする木づかい促進」 赤間 哲 (三井物産(株) 環境・社会貢献部 社有林・環境基金室 室長) パネルディスカッション「2020年に向かう、森と木を活かす「グリーンエコノミー」の展望〜デザイン&異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい〜 <モデレーター> 宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授) <パネリスト> 益田 文和、赤池 学、門脇 直哉((一社)日本プロジェクト産業協議会 常務理事)、赤間 哲、末松 広行(林野庁 林政部長) ■ 開会挨拶宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授)
折しもリオ+20ではグリーンエコノミーというキーワードを掲げています。それを受けて、我々は次の世代をどう構築していくかという大きな課題を自らに課しました。 森林、林業、林産業については厳しい状況にあるとはいえ、この追い風に向かって大きく展開していく必要があります。「美しい森づくり」も立ち上げて10年近くが経ちますが、皆様のご協力により個人メンバー、フォレストサポーターズは4万人を超えて、ますます関心が高まっています。 本日は、テーマにあるように、グリーンエコノミーの大きなテーマの一つである木を使う社会に向かって、特に国産材等の利用の仕方、デザインの作り方、それを浸透させる社会の作り方といったところで議論をさせてもらえればと思っています。 本日最初は、東京造形大学の益田教授に基調講演をいただき、その後、環境デザイン等でデザインを中心に人間の行動までデザインしていく赤池さん、JAPICの高藪さん、さらには経団連等の皆様、最終的には三井物産の赤間さんからご報告をいただきながらパネルディスカッションへと移ってまいりたいと思います。 その中で、林野庁から末松広行林政部長に登場いただき、全体構造でグリーンエコノミーという社会やそれに向かう森林林業のありようを議論できればと思っています。忌憚のないご意見をいただきながら一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。 末松 広行 (林野庁 林政部長)
先ほど、来年の5月から林業に関係する映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)〜神去なあなあ日常〜』が公開されますが、『ウォーターボーイズ』『スイングガール』などを手がけた矢口史靖監督と私どもの皆川芳嗣次官と対談をしていたのですが、今年、来年は、林業というもののイメージが変わりつつあるきっかけになる年なのではないかと思っています。 いろいろな数字を見ても変わってきたことがあります。たとえば、去年と今年で見ると、伐採量は1割くらい増えています。厳しい状況の中、合理化を進めながらきちんと世の中で材が出るようになってきました。 価格も昨年や一昨年は、伐採量を増やすとその分価格が暴落するという傾向があったのですが、今年は堅調に推移しています。なぜか考えると、今はやはり需要が引っ張ってくれているからだと思います。日本には豊かな森があり、伐る木がたくさんありますが、ただ伐れば黙っていても使ってくれるという考えは間違いです。しかし、木の良さをきちんと生かしていろいろなところで新しい使い方や素敵なデザインで使おうという努力がされると少しずつ良くなっていく。そういう芽が出始めているのではないかと感じました。 高齢化の進む林業、農業といわれますが、この5年間で林業の従事者の平均年齢は下がっています。私たちが「高齢化が進んでいる」と焦っている間に、新しい時代に向けて動き出す人が出てきていることの現れだと思っています。今はこうした新しい動きを伸ばす時期ではないかと思っています。 何よりも大切なのが、需要の側に使ってもらいたいもの、本当に役に立つもの、素敵なデザインなどです。こうした部分で各民間企業の活発な取り組みが大切ですし、今後はそれがビジネスにもなっていくのではないかと思っています。本日のシンポジウムは、本当に良いタイミングで良いお話が聞けるのではないかと思い、私も楽しみにしています。 また、この場を借りてお知らせしますが、エコプロダクツ展のエントランスの環境コミュニケーションステージやお休み処を木質化するということで木をふんだんに使っています。前年よりも癒しの空間が演出できているかと思います。ぜひ見ていただいて、こうした会場に木があることのプラスの効果を感じていただければと思います。 本日のシンポジウムの成功と皆様のますますのご発展を祈念して挨拶に代えさせていただきます。ありがとうございました。 ■ 基調講演新時代の森と木を活かすエコプロダクツ 〜グッドデザイン賞等を事例に益田 文和 (東京造形大学教授、(公財)日本デザイン振興会理事、(株)オープンハウス 代表取締役、エコプロダクツ2013「エコ&デザインブース大賞」審査員) こんにちは、益田です。私はずっとデザインをしていまして、1950年代にできたグッドデザインという制度の審査を20年以上にわたって行ってきました。主催者団体である公益財団法人日本デザイン振興会の理事をしています。グッドデザインをとっている商品の中に木を生かしたものがたくさんあります。今日はそれをご紹介しながら、木とデザインについて考えられればと思います。 エコプロダクツ展は1999年に始まりましたが、その準備段階からお手伝いしてきて、毎年どんどん大きくなっていくのを見てきました。一時期、2000年半ば頃、毎年入場者数が増えて派手になっていく会場の様子を見ていて、「何かおかしいのではないか」と感じるようになりました。ギフトショーかモーターショーかのようになり、ブースは撤去の際ものすごいゴミの山になります。「なんとかならないだろうか」と思っていたところ、ブースのデザインコンペが始まりエコデザインブースの審査も何年か行っていますが、今年もその審査会で大変困っています。今年ばかりは急に木がたくさん使われていて、どちらがいいのかよくわからない状態です。ありがたい悲鳴で、他の展示会とは違う雰囲気が出てくればそれに越したことはありません。 今日はたくさん事例を持ってきています。一つひとつの商品は20分くらい話しても話しきれないほどにストーリーがあるのですが、時間もありませんので、さっと流してたくさん見ていただくようにしたいと思います。 最初は、ロングライフデザイン賞というグッドデザインの中でも特別な賞で、10年以上モデルチェンジをしないで作り続けられてきたデザインを表彰するという制度です。そこで今年賞を取った、秋田木工さんのイスです。これがなんと、累計で120万脚以上売れているといいます。これは小さなスツールですが、重さにして5kgと勘定しても、120万脚も売れると6000トンなどという膨大な数字になります。小さな製品であっても工業製品は数が出ますので、それが需要を牽引するということは十分あり得るという実例だと思います。
あるいは、物理的におもしろい実験的な取り組みをしている製品もたくさんあります。これは、薄いシラカバの間伐材の間に発泡剤を挟んでいて、フレシキブルに曲げることができます。クッション性があり、曲がり方も滑らかで感触もいいこと、デザイン的にも非常にシンプルで美しい波型のフォルムが作れるということで評価されています。
もうひとつ、最近の傾向として、建材のサッシ部分でアルミと木質とのハイブリッドが増えています。人の目に触れ体に触れる部分には木を使い、アルミの機能性部材を包み込むようにしている製品です。これはヒノキの集成材を使っています。 もう少し木をたくさん使うという意味で期待できるのは、2×4の耐火建築工法です。ご存知のように、木質の住宅は都市部には消防の関係もあって使いづらいのですが、それに対して特殊な素材・構造・工法を工夫して耐火構造を実現したものです。都市の中に木造の多層階の建築を作ることも可能になってくるということです。
パネルも、木のパネルだけでは構造的なデメリットがありますので、それを鋼材とハイブリッドで使う新しい提案が次々に生まれています。これは鉄のフレームに木のパネルを仕込んでいます。うまく使うと、鉄骨の建物の要所要所で木があらわれてくるという使い方で耐震性も高まるのではないかと思います。 この建築の提案は少し趣旨が違ってきて、その土地の木を使う。昔は当然そうでしたが、最近では輸入材に勢いがあるのでどこの木かわからないものを木造建築に使っていますが、これはその土地の環境下で育った木を使って建築することに特化しているデザインです。欧米などではずいぶん進んでいることで、エコロジーデザインをしながら土地の風土に合った材を使い、環境に溶け込むことでデザイン的にも優れたものになっていくということを当然のこととして行っています。日本でもそれをやっていこうという話です。 これは近い例で、トイレです。四国八十八ヶ所のお寺の一つに建っているトイレで、3つの個室をバラバラに建てています。その土地のヒノキを使ったパネル構造です。風景にマッチした、でしゃばらないデザインで評価されています。
少しトリッキーな使われ方としては、床材は今、本物の木かどうかわからないような状態で様々な製品が作られていますが、これはスギの合板を芯にして表面に栗の木を貼ることで栗の板のように見せているものです。こうすることで機能的にも両方の良さが出て、狂いのない床材で、風合いや見た目は栗のような落ち着いた感触のものができあがります。 日本はスギが非常に多いのですが、これはエンツォ・マーリというイタリアの我々の大先輩のデザイナーがデザインしたイスです。スギを使うと家具はなかなか難しく避けられてしまうのですが、デザイナーはふんだんにあるスギがなかなか家具にならないという悩みを抱えてきたなか、これはスギに圧力と熱をかけて容積を小さく密度を高めています。そうすることで狂いが少なく扱いやすい素材ができます。それを使ってのチャレンジです。エンツォ・マーリ氏に言わせれば「スギの節は美しさだ」ということで、「尊重されてしかるべきものだ」とデザインに取り入れていると言っています。 ここに少しおもしろいことが書いてあります。スギの学名はクリプトメリアジャポニカというようですが、「日本の隠された財産」という意味だそうです。なかなかうまいことを言うなと思います。
同じように間伐材を使って食器を作ることもできます。木のお皿というのは以前からあり、半分使い捨てといいますが、10回ほど使っているとボロボロになっておもしろいのですが、やがて捨てることになります。これをもう少し長く使おうということで、2種類の木をあわせて作っています。
最近グッドデザインでは、製品だけでなく仕組みに対しても賞を出しています。これなどは、山梨県の材と不動産会社のコラボレーションで木を使っていこうという仕組みづくりで受賞しています。産地とそれを使う現場、消費地が直接結びつくことによって適切な供給がなされる、あるいは需要が喚起されるようなことが起きてくるという仕組みづくりは、今後、木を活用していく際には必要なのではないかと思います。 ![]() 子どもの頃から木に触れることはとても重要なことで、これは国産のブナの曲げ木を使った子ども用自転車です。足で蹴ってバランスを育てる遊具です。 森には木ばかりではなく、特に日本は竹もたくさんあります。ただ邪魔だから伐ってしまえというのではなく活用しようということで、竹の弾性をうまく使ったデザインで、ビニールハウスに使用しています。組立式で、軽くて、非常に気持ちのいい空間ができます。このように竹を使っていけば、日本の昔のものづくりである竹細工も復活してくるように思います。 このあたりからは、製品ではなく森を活用することに対するグッドデザインが授与された例です。森の幼稚園です。智頭町という鳥取県のスギで有名な産地の幼稚園で、せっかくあるすばらしい森という自然を子どもたちの遊び場として使おうということで、園舎がありません。子どもたちは毎日外で遊び、それを先生方がうまく誘導していくというユニークな活動です。
これは森の牛乳です。乳牛からとった牛乳ですが、森林で牛を育てる森林酪農で最近各地で始められています。 日本のデザイナーは木が大好きで、昔から木をよく使います。ともすると木なら何でもいいというくらい木が好きなものですから、どこの木だか頓着せずに使ってきていたところもあります。一時期は木のように見せることがずいぶん流行って、木目のエアコンやテレビが登場しました。木ではない木目がたくさん出回った時期が日本にもありました。そのくらい木が好きなわけです。私もデザインを始めた頃、一生懸命木目を手で描いていた時代がありました。今はデザイナーも少し賢くなり、何より消費者が賢くなっていますから、どこの木で、何の木で、それを使うことにどういう意味があるのかということを気にするようになっています。とてもいいことだと思います。
隣の森は単一樹種の人工林です。日本でも同じですが、ここで建材を育て、言ってみれば工場のような森です。ここには生態系は戻ってきません。 成長して使えるようになると今度はお金を払って村人から材を買い取ります。村人にしてみれば、タダで分けてもらったものを植えておくだけで、時々コーヒーが飲めたり、マンゴーが食べられたりしつつ、気がついたら材としてお金が入るというとてもいい話です。Singgihはそれを使って自分のところで製品を作っています。
ものづくりのひとつのとても良い答えではないかと私は思っています。木を植えること、育てること、伐ること、製材することは別の工程で別の仕事のように見えますが、結局それを何に使うかという目的があり、つながり、我々の自然環境をきちんと育んでいくという構造ができれば、日本も隠れた宝を活かせる時代が来るのだろうと思います。彼は今後、コーヒーそのものも商品化しようと考えているようです。 これら事例を紹介して、私の話を終わりたいと思います。ありがとうございました。 感性価値デザインと新時代の森と木を活かすデザイン 〜キッズデザイン賞等を事例に赤池 学(科学技術ジャーナリスト、潟ニバーサルデザイン総合研究所代表、(特)キッズデザイン協議会 キッズデザイン賞 審査委員長) ご紹介いただきました、赤池と申します。前段でお話しされた益田先生はデザイン界の大先輩なので、同じような趣旨の話もいくつかあろうかと思います。僕はデザインと木の可能性のなかでも、子ども視点で見た時にどういう可能性があるのかということをいくつかの事例を交えてご紹介させていただきたいと思います。 私どもはユニバーサルデザインをテーマに1996年から、家電メーカーさん、自動車メーカーさん、住宅メーカーさんと、皆が使いやすく暮らしやすいものづくりやまちづくりを考えてきました。 ![]() これは、ユニバーサルデザイン開発のコンサルを行う時のベースとなるキーワード資料です。見ていただきたいのは6番目のサスティナビリティ、持続可能性のデザインです。ユニバーサルデザインは共用品開発と訳されますが、であるならば、次代のユーザーとなってくれるであろう子どもたちや、さらに言えば、まだ見ぬ未来の子孫たちとも共用できるように作らなければいけないものです。今まではユニバーサルデザインとエコデザインは別の文脈の中で語られてきましたが、実はUDにおいてサスティナビリティ、環境対応ということは外せない重要な要件なのです。 これから様々な木製品を含めた製品作りを行う際、どういう価値開発を意図して行うべきかということを、4つのウエアで整理しました。 今までのものづくりは、ハードウエア・技術を始発駅に、「この新しい技術を商品に展開していけば、従来にない機能や他社にない使い勝手を生み出せるだろう」という発想で、ハードウエアとソフトウエアのプランニングとデザイニングを通じていろいろな製品が作られてきました。 しかし、特に家電などはわかりやすいと思いますが、お隣韓国のサムスン製の家電や携帯電話の機能は日本の技術を真似していますから大差はなく、値段はあちらが安く、デザインは日本以上に韓国は力を入れています。そうすると、機能、品質、使い勝手だけでは他国のものづくりと戦っていくことはできないと感じ、2つの新しい価値を以前から提案してきました。 ![]() 一つ目が、センスウエア。五感と愛着に基づく製品です。五感と心に訴えかける価値というものを、機能とは別に作り込むことはできないかという提案です。具体的には、「この製品の開発の仕方に共感した」とか、「見たこともない新しい発想で作られた商品を見て感動した」などという価値は、あまりコストをかけずともクリエイターやメーカーの心根や愛、感性で生み出すことができます。 さらにソーシャルウェア。日本の森を守るための間伐材を多用していくこと自体が公益としての品質をもっているのですが、これは、2011年にハーバー大学のマイケル・ポーター教授がクリエイティング・シェアード・バリュー(CSV)という考え方に通じます。事業益と公益を両立させている開発・投資を行わない企業には持続性がないという提起です。 機能もあり使い勝手もいい、何か愛を感じ、新しい木づかいの文化などが商品開発によって生まれてくるような循環を意識して、それを螺旋的に高度化させていくことが木製品開発を含めたものづくりの王道だと思っています。
私は、ものづくりの様々なコンサルをしてきました。その中で益田先生も重要なキッズデザイン協議会の審査員メンバーですが、10年ほど前に経産省に、「キッズデザインという考え方を普及浸透させてくれ」という提案を私どもで行いました。 ![]() キッズデザインは子どものための遊具や玩具デザインを考える賞ではありません。この考え方を提案した当時、六本木ヒルズの回転ドアで男の子が頭を挟んで亡くなってしまったり、事務機器であるシュレッダーに4歳の女の子が指を入れてしまい4本の指をはねきってしまうといった、子どもがユーザーではない商品や施設で子どもたちが重篤な事故の被害者になっていました。こういうことを解決するものづくりや施設づくりを行って欲しいということが、キッズデザインのミッションなのです。子ども目線、子ども基準で安心安全に作っていく。子どもの創造性の開拓に貢献する。あるいは子どもを産み育てやすい環境づくりを支援していくような、3つの目線で様々なものを開発していく。そのモデルとなる商品や施設を検証する目的で、キッズデザイン賞の運営を行ってきました。 もうひとつ、キッズデザイン協議会が発足以来行っていることは、大手の小児病院の医師と組んでの子どもの事故調査です。 僕は言い出しっぺでしたが、子どもの死亡原因は小児がんだとばかり思っていました。未就学児童について具体的に言うと、死亡原因の第1位は住宅からの転落事故です。第2位は住居内での転倒事故。第3位はやけど。第4位はキャップなどを誤って飲み込んでしまう誤飲による窒息。第5位が交通事故。第6位になってようやく小児がんが出てきます。日本の幼い子どもたちの死亡原因の第2位が住居内の転倒事故であるなら、木のクッション性を活かしていく。先ほど、発泡剤と木を使ったパネルの紹介がありましたが、あのような発想をフロア材に持ち込むだけで、こうした重篤な事故が軽減できます。そうした木づかいの提案をマーケットに対して広めていくこともできるのではないかと思っています。
先ほどお話したように、安心、安全、創造性と未来をひらく、産み育てやすいデザインという3つの視点から、これまでいろいろな商品や施設をKDマークとして選んできました。 こ あるいは同じ木質遊具で、左下に「KUNDE(クンデ)」というものがあります。在来の軸組工法を積み木のようにトンカチで叩きながら学んでいくというものですが、子どもたちだけでなく建築を学んでいる学生などに、高価格な遊具でありながら売れているという事例です。
もうひとつ、この安倍川もちは4個しか入っていませんが、1600円という高価ですが、とてもよく売れています。キリの箱ではなくてもいいのです。スギだってヒノキの箱だって、少しデザインをかけていくと魅力あるパッケージを作ることもできます。 お雛様は男雛、女雛の2体しか入っていませんが、テキスタイルや飾り金具が最先端の職人さんの技術でつくってあり30万円ほどするのですが、これらが全部木箱の裏に道具類が簡便に収納できるようなデザインにしてあります。 このプロジェクトが契機となって、今はお雛様業界では木質の収納型のお雛様が各産地で作られるようになってきました。
メディカルトイは医療玩具です。弘前大学の医学部の先生方や青森県の保健医療大学の先生方とプロジェクトを各企業が組んで、こういう科学的理由から子どもの知育に貢献する、子どもの福祉にいいとか、リハビリに具体的にどう効いていくのかということを、大学の先生方とエビデンスをきちんとつけた形で機能性の木製品を作っていこうというプロジェクトで、いろいろな木製品が生み出されてきています。
そうした中で例えば、子どもたちとバーベキューパーティーやガーデンパーティーができるエクステリアの木質デッキは、私たちデザイナーや建築家が使いやすい、高い耐久性や耐候性に富んでいる木材商品の数が非常に少ない。こういうところに少しだけ研究開発投資をする、前段のメディカルトイのように、地域のしかるべき先生方とコラボレーションをして屋外でも使いやすい木製品をデザインと含めて提案していくと、大手のビルダーさんなども確実に興味を持つだろうと確信しています。
これは、ワラ床の畳ではありません。ヒノキの製材時に出てくる廃材のチップを床にして作った畳です。香りも良く、精油の成分が天然の防虫防菌効果をもっていますので、かつての防虫畳のような有機リン系の農薬を染み込ませてシックハウスを起こすようなことはありません。地域の木材とつながる畳のようなものも開発は可能です。岐阜県のメーカーが開発したものですが、東日本ハウスさんをはじめとして多くの木質系住宅の畳としてヒノキの健康畳が使われるようになっています。
先ほどの家にはもう一つ、庭を入れました。エクステリアのデッキ材の話をしましたが、これは涼やかな空気が坪庭や菜園を通じてどう煙突効果で抜けていくかということをコンピューターで徹底的にシュミレーションした位置と大きさに、庭そのものをシステム配列した住宅です。こうした庭がシステマチックに組み付いています。
繰り返しですが、新しい発想の感性価値に富んだ住宅の中に木を使おうとしたとき、品質や機能性の部分でまだ課題がある。そういうところにいち早く切り込んでいくことが重要だと思っています。
今、アメリカの住宅のほとんどは、近隣や仲間たちとパーティーができる木質仕上げのセレモリアルスペースと呼ぶ大空間を南面に持っていっています。そこで子どもたちを交えてパーティーをするようなライフスタイルを提案する家が、とてもヒットしているのです。 構造材のような部分に、国産材をいかに合理的、科学的に使っていくことができるか。この領域についてもまだまだビジネスとしての可能性があると思っています。
さらに、この地方の間伐は馬搬(ばはん)と呼ばれる、馬が山から木を引っ張ってくる伝統技術を行っています。今はホースロギングウッドといって、「この材は馬搬によって引き下ろされたものです」という馬搬認証の地域材を付加価値にしながら木質の戸建住宅をセールしようと動き出しています。
日本の間伐材などを多用している住宅メーカーさんが、接木で作った庭に置くベンチのようなものを提案していく、家族とともに木のベンチが育っていく、そういうことが木の持つ価値を子どもたちを含めて施主たちとコミュニケーションしていくというビジネスモデルに組み付けるだけで、単なる接木も住宅メーカーにとってのビジネスモデルになりうるだろうと思っています。
これは東北大の事例です。震災以降、東北大学は今、10代から90代までの世代がどういう強い欲求を持っているかということを調査し続けています。実は10代から90代までのすべての世代が「一番大切なものは自然だ」と言っています。2つ目は「楽しみ方」です。3つ目は「社会と一体。コミュニティーへの参画」です。4番目は、90歳のおばあちゃんまでが未だに「自己実現や自分成長したい」というパーソナルグロースを希望しています。こういうニーズが潜在的にあるのであれば、この領域の商品開発に力を入れていく。そういう意味で僕は、木に対するニーズは潜在的趣向性が明らかになった今、これから新しいマーケットを作っていくことができると思っています。
![]() 僕らの研究所は、20世紀までの社会を自動化社会と捉えています。非常に利便的で効率的な社会。でも、環境破壊を含めた負の遺産をためてしまったので、それとは違った社会モデルを考えようということで、ついこの間まで、最適化社会という呼び方ができるような社会モデルを作ってきたと思います。しかし震災を受け、結局政府も有識者もエネルギーの最適な構成比について科学的・論理的な根拠を一切持っていないということを日本人が皆知ってしまいました。あの瞬間に最適化社会は崩壊したと思っています。これからは、情報技術の成熟を背景に、個人も企業も地方自治体も自ら計画して行動していくようなアクションが間違いなく台頭してくると思っています。さらにそのフロント集団は、そもそも知的に導入展開すればコストのほとんどかからない生態系サービスをまちづくりに取り入れて始めています。自然のメカニズムや自然素材をものづくりに展開していくような事業者が既にたくさん出始めていますが、さらに出てくると思っています。自律化社会、自然化社会という大きな社会進化の中で、多様な領域で木を使う文化や技術がますます広がっていくだろうと確信しています。 お集まりの皆様、木づかいのためにそれぞれの専門を活かして、このムーブメントを大きく広げていただければと思います。ご清聴ありがとうございました。 |
![]() |
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|