『森とつながる都市での木づかいシンポジウム』〜デザインと異業種連携で産み出す、新時代の森づくり・木づかい〜2013年10月1日(火)14:30〜17:30 全国都市会館 2階大ホール 開催趣旨2012年に策定された「生物多様性国家戦略」では、生物多様性の保全に向けた取組として国産 材の利用拡大が位置づけられるともに、本年から開始された京都議定書第2約束期間では、森林による二酸化炭素の吸収に加えて、木材として住宅等に貯蔵されている炭素量が温室効果ガスの吸収源として計上されることととなり、木材の利用が温暖化防止 に貢献することが明確化されました。 こうした中、我が国では、「公共建築物等木材利用促進法」の制定や「再生可能エネルギー固定価格買取制度」の開始、「木材利用ポイント事業」等の新たな政策が展開されております。 そこで、豊かな森林資源と木の文化を有する我が国において、素材としての木材の良さを再認識し、業種を超えた幅広い企業等が森と木を活かした新しいビジネスの創造の可能性と地域社会やライフスタイルのあり方について考える場として、2013年の「木づかい推進月間」のキックオフ・シンポジウムを開催します。 プログラム1.主催者挨拶出井 伸之 (美しい森林づくり全国推進会議 代表) 佐藤 正敏 (経団連自然保護協議会 会長) 2.来賓挨拶林 芳正 (農林水産大臣) 3.基調講演「木づかいで地球も人間も健やかに 〜京都議定書における木材の取扱いと木材の快適性増進効果に関する研究の最前線〜 恒次 祐子 (独立行政法人森林総合研究所 主任研究員) 4.概要報告動き出した、森とつながる都市での木づかい 沼田 正俊 (林野庁長官) 5.話題提供林業復活に向けて、国民の理解と合意のための運動 高藪 裕三 ((一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC 専務理事) 6.事例発表「森とつながる都市での木づかい・最前線」感性価値と健康効果を高める木質空間の提案 〜イベント・店舗・福祉施設からまちづくり〜 杉本 貴一 (住友林業(株)木化営業部) Soup Stock Tokyo の国産材を使った店づくり 平井 俊旭 (スマイルズ(株)クリエイティブ室 ディレクター / Soup Stock Tokyo) 7.パネルディスカッション「新たなCSR・事業開発の可能性」〜森と木のあるライフスタイルの視点から〜 <コーディネーター> 宮林 茂幸(美しい森林づくり全国推進会議 事務局長、東京農業大学 教授) <パネリスト> 住友林業(株)、スマイルズ(株)、(一社)日本プロジェクト産業協議会/JAPIC、 林野庁、(独)森林総合研究所の各発表者 <コメンテーター> 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表) ■ パネルディスカッション「新たなCSR・事業開発の可能性」〜森と木のあるライフスタイルの視点から〜<コーディネーター>
宮林 皆様、こんにちは。今日の議論を聞いていると、美しい森林づくりや木づかい運動を続けてきた中で、今は新しい転換期に入っていることを感じます。美しい森林づくりでは昨年度より木づかいとの連携が始まりましたが、まさに、木を使うことが美しい森林づくりにつながるのだという新しい動きが出てきました。これは昔からあったことなのですが、なかなかつながらない部分でした。今日はそれをさらに国民運動として「皆で木材を使っていこう」「木材を使って山に還元していこう」という運動論に展開できるようなパネルディスカッションにしたいと考えています。 質問がたくさん来ています。時間が限られているので答えは簡単にしていただきたいと思います。関連した質問もありますが、代表的な質問を読ませていただきますのでご了承願います。 まず、森林総研の恒次さんに対して、「日本は京都議定書の第二約束期間に参加していないのではないか。そうした中で、炭素吸収の計算・報告は関係ないはず。同時に、もし第二約束期間に参加するとすれば、現在の数値でどれほどの値になるのか」という質問をいただいています。関連して他の方からもいただいていますので、お答え願いたいと思います。 恒次ありがとうございます。京都議定書は、入っていなくても気候変動枠組み条約での報告があるため、やはり計算が必要です。もう一つは、先程ダーバンのお話をしましたが、次の年のドーハの会議で、議定書に入っていな国も森林関係については同じような方法を使って計算することが推奨されるという結論が出されていますので、日本としても国際的に決められたルールにならって計算することはどうしても必要になると思っています。 計算するとどうなるかについては、先日ルールが決まったばかりで現在計算を進めているところです。はっきりした数字は申し上げられませんが、実際はものすごく大きくはないと思います。今後木づかいを進めて継続的に木を使っていくことが、森林における吸収量確保のためにも必要だと思っています。 宮林2番目に移ります。同じように森林総研の恒次さんに、「木材は素材を生かした形で使用しなければ良さが失われるとの実験結果になっています。木質と非木質との比較をすべきではないでしょうか。また、単なる木材至上主義のプロパガンダになる恐れがあるのではないか」という質問です。同じような質問が他の方からも出ています。 恒次今日ご紹介した研究自体が始まったのが最近で、まだ始めのところを行っている段階です。そのため比較的わかりやすいところから始めていますので、構造材と比べてどうか、非木材との違いはどうかということはこれからさらに実験していかなければならないところです。はっきりしたお答えになっていないかもしれませんが、これから調べていかなければならないと思っています。 宮林今後積極的に進めていきたいということですが、今日は企業の方もたくさんいらっしゃると思います。莫大な費用がかかると思いますので、ぜひ協力をしていただければと思います。 もう一つ、住友林業の杉本さんに、「御社がかかわられた耐火構造の都内の音ノ葉カフェを見に行ってきました。すばらしいと思います。今後の耐火建築構造物の普及の見通しについてご見解を教えていただけますか」という質問です。 杉本残念ながら、一番の課題はコストです。音ノ葉グリーンカフェは、国交省の先導事業の補助金をいただき、建設費の一部が補助されています。それでなんとか事業収支が成り立っています。では、この補助金なしでこの物件が実現できるかというと、まだまだ厳しい状況です。 林野庁からは、耐火集成材開発の補助金をいただいています。今後コストを下げる製造過程の検証やアイデア等を出すことができないかということで、応援いただきながら進めているところです。 今、ご質問いただいた方のように、皆さま木が良いとお思いのことは確かですが、これがビジネスとして戦える状態まできているかというとまだ課題が多いので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。 宮林林野庁への質問です。「欧州では、CLTを使った構造建築を普及させるために建築基準法にあたる法律を改正し、高層ビルも木造化している。林野庁はどう考えているのか」という内容です。 末松CLTは、今後の木材利用の仕方のひとつとして非常に有益で期待が持てるものだと思っています。今日お話があったように、8階建てや10階建てのビルが木材だけでできるとなれば消費の面でも非常に良いです。 現在の状況ですが、JASという企画の整理と様々な建築普及関係の整理という2段階の手続きが必要です。JASは農林水産省が担当していますので、現在パブリックコメントを実施して今年度中に企画を作ることにしています。「これまでのものに比べてかなり速いスピードでやっている」という話をすると、「ほかのものもきちんとやれ」と言われてしまうのですが、関係者は非常に作業努力をして速い動きになっています。国土交通省のほうでも検討していただいていますので、我々としてはその検討に役立つ資料を出していくことが仕事だと思っています。 実際に作るためには基準が全てできている必要がありますが、まだ整備されていない場合は、大臣の確認という形で一つひとつ調べて建物を建てていくという方法もあります。現在は、そうした方向で建てていくことも支援したいと思っています。実際に建物が建つということと、規制を整備するということを、両方相まって進めていきたいと思っています。国土交通省も一生懸命やってくれていますので、かなり速いスピードで使えるようになると期待しています。 宮林次に、「木材を利用した建築物が増えているという話だが、新国立競技場にもぜひ木材を多く使用してほしい」という質問も出ています。これはのちほどの議論の中にも乗せていきたいと思いますので、ご意見としていただきたいと思います。 続けて、「ガードレールを木材でつくる研究を、テレビ番組『夢の扉』で見て感激しました。実際に木質ガードレールは取り入れられていくのでしょうか」という質問です。これは林野庁、お願いします。 末松いくつかのところで実際に設置されています。また設置したあとの評判もいいと聞いています。各県でこういうものを増やそうという努力がされている最中です。 ただ、先ほどの住友林業の方のお話にもありましたが、コストなど課題がいくつかありますので、それを克服していく必要があると思っています。私も番組を見て、私たち林野庁の者や検討を担当する者たちも、「やっとこういうふうに取り上げてくれた」と喜ぶと同時に、あまり進まず叱られているような番組だったので、「一生懸命やっているのでもっとほめてもらいたいな」と思って番組を見ていました。 宮林さらに、「木材利用ポイントを継続してほしい。来年も継続するならば木質建具も対象にしてほしい」というご質問です。 末松木材利用ポイントは、地域材をたくさん使っていただき、日本にそういう文化を根付かせようということで始めたものです。現在、ハウスメーカーなど様々な方面で効果が出てきていて、きちんと続けるべきだというお声もたくさんいただいております。 一方、家電エコポイントや自動車のエコカー補助金など他の制度をならった部分もありまして、消費者に向けて直接給付する制度は効果自体は高いのですが、どう続けていくかという点においては財政上の話でいつもせめぎ合いがあるのが実態です。担当としては、木の良さが浸透し、ポイントをつけなくても皆が喜んで使うようになるまでもう少し続けたいと思っていますので、ぜひご支援をお願いします。 宮林もう少し続けるということですので、よろしくお願いします。次も林野庁です。「未利用間伐材をバイオマスエネルギーに利用するのも良いが、燃やす前に製紙原料や木質構造の原料に使ってCO2を固定する方を優先したほうがよいと考える。そうしたカスケード利用の意識を高める方策は何かありますか」という質問です。 末松ご質問のとおりだと思います。できるだけカスケード利用するということで、木が木として成長したあと、その魅力を全部使っていくことが大切だと思っています。では必ずそうすべきかというと、柱になる部分をわざわざチップにして燃やすということは誰が見ても良くないことだと思います。いろいろな用途があり、それがどのくらいの価格、どのくらいの経済効果を生むかというところも見なければなりません。これまでも、そういう取り組みが良いことはわかっていても、なかなか値段が出ずにできないということがありました。 今回、裾物と言われるものが膨大にあまって使われていない中、新しい需要の一つとしてエネルギー利用が誕生したと私たちは捉えています。エネルギー利用よりも社会的に価値があり、経済的に価値があるものもどんどん進めていくことができればいいと思っています。 また最近は、木質バイオマス発電や熱利用は巷で言われているほど原材料の値段が高いわけではありませんので、その中で秩序ができていくのではないかと思っています。固定価格買取制度や国の支援がなくてもこうしたことができる時代になるよう制度も変えていくことが必要だと思っています。 宮林もうひとり、「木づかいサイクルマークの使用・登録方法を教えてください」ということで、「勝手に名刺に入れたりしてはいけませんか」という質問です。 末松木づかいサイクルマークは、日本木材総合情報センターにお問い合わせ、ご登録していただければと思います。今日は日本木材総合情報センターの方がいらっしゃるそうなので、登録したりお使いになりたいということであれば、ぜひ帰りにお問い合わせいただければ。よろしくお願いいたします。 宮林最後です。「このたびいただいた資料はインターネットに掲載して良いのでしょうか」という質問ですが、発表者の皆様と事務局とで確認させていただきますのでお待ちいただきたいと思います。 それでは本題に入ります。今ここにいただいている質問を見ても、木づかいに関してかなり関心が高くなってきていることを感じます。そこで、特に平井さんや門脇さんから、果たしてそうした側面があるのかどうか、林業関係者とは違う立場でお話しいただければありがたいと思います。門脇さんからお願いします。 門脇木づかいという意味では取り上げられる機会が増えていると考えています。『日刊ゲンダイ』の話もありましたが、マスコミで取り上げる回数が非常に増えています。私はこの業界に入ってから2年ですが、ちょうど1年前にTV番組『クローズアップ現代』で木のことが取り扱われたことがあります。その時はここまで来たかと驚きましたが、最近では『日刊ゲンダイ』や『読売新聞』朝刊でも取り扱っています。マスコミが木に注目してくれているということを実感しています。 私のもうひとつの実感といえば、12月に行う林業復活・森林再生を推進する国民会議に関して、発起人200名はあまり心配していなかったものの、賛同者1000人というのはかなりハードルが高いと思っていたのですが、あっという間に700数名まで来ています。そういう意味では、徐々にではありますが関心が高まっていると感じます。 宮林関係者やマスコミはある程度関心が高まっていますが、消費者、末端のユーザーに関してはどうでしょうか。 門脇消費者という意味合いではこれからまだ努力が必要だと思います。ひとつの要因として、言葉が難しすぎるということがあります。たとえばA材とかB材、カスケード利用など、林業関係の言葉に一般ユーザーはなかなか馴染みがありません。わかりやすい言葉で木や森を理解していただくことが必要かもしれません。 宮林本来、林業関係は難しい言葉を使います。ずいぶん柔らかくしたのですが、まだまだわからないことが消費者の方にあるだろうといことが確認されて、わかりやすくしていかなければいけないという課題が浮かび上がりました。平井さんはどうでしょう。 平井我々は2010年頃から木を使うことに取り組んできましたが、その頃と比較すると木材のことが取り上げられたり話題になることが増えつつあるとは思います。ただし、店で使う側からすると、コストがいつも問題視されたり、消防の問題が課題になる。特にデザイナーの間では、本気で木材を使っていこうという流れにはなっていないと思います。当社はデザインをする人間とクライアントが一緒になっているのでこういう取り組みができるのですが、おそらく、提案する側とお金を払うクライアント側が思いをひとつにしないと実現は難しいと思います。解決策の一つとして、ストーリー性のようなもので両者の意識を揺することが必要かなと感じています。 宮林先ほどのスライドの中にもありましたが、16カ所の店舗で地域材を組み合わせて使っていますね。方針などはありますか。 平井あれは偶然というか、その時々にあった人のつながりを優先しています。コンセプシャルに「ここの木を推進しよう」ということを考えているわけではありません。かなりファジーなやり方ではありますが、いろいろなところにいいものがあるということをユーザーの方に知っていただくことがひとつのスタートかと思います。 宮林我々専門家から見ると、大変素晴らしい活動の報告だと思います。杉本さんのところでも専門の立場で様々なことを工夫されていますが、追い風が吹いているという手応えはありますか。 杉本震災もありましたが、ここ2年くらいは問い合わせやヒアリングなど相当数の引き合いが来ていることは確かです。住宅以外の部分を担当している部署なので事業者・運営企業が多いのですが、その方々に聞いてみると木造のニーズが多い。「木質のほうが流行るのではないか」と彼らは思っているようです。逆に作り手側から言うと、「やりたい」「やってみたい」という声はとても増えていますが、その際、どうしても木悪説的な課題が挙げられ、「ユーザーは欲しがるけれども、作り手側にはいろいろなハードルがあり価格も上がってしまう」というジレンマに陥っていることを実感しています。 宮林今回の木材ポイントにしても、消費者の方にどのくらい浸透しているか具体的には見えませんが、かなりの勢いで進んでいると仮定すれば、木材の良さをきっちり教えていくことが課題になってくるかと思います。恒次さん、そのあたりはどのようなPRや具体策があるでしょうか。 恒次具体的な策といいますか、最近私が関わっている事業では、建築分野の先生の中で木に対する関心がとても高まっていることを感じています。建築の先生と木材関係者が一緒になって木の良さを整理する研究会のようなものを立ち上げるのはどうかという話も出ておりまして、そこで木の良さをデータとして整理しながら、ある程度まとまったらWEBサイトなどで設計者や消費者の方にアピールしていくような方法はどうかと考えています。科学的根拠をもって整理していくといいのかなと思います。 宮林確かに、設計の段階で木材が入っていないと、造ったあとでは遅いですね。そう考えると、科学的ポイントを設計とデザインの段階で入れ込む工夫も必要かと思います。その点、林野庁さんはいかがでしょうか。 末松私たちは森のことを考えて仕事をしてきたところがありまして、説明をする際いつも、「このままでは国土保全ができない」ということを伝えてきました。「森を健全にすることが林野庁の取り組むべきことだ。だから今、木を切って使わなければいけないので使ってください」という論理でものを考え政策を進めてきた気がします。使う人の立場に立ってあまり考えてきませんでした。しかし最近は考える機会が増え、木を使って家を建てるといいということを多くの方が言ってくださるようになりました。先程の木悪説・木善説の話を聞いていて本当にそう思いました。木を使うと良いということは皆わかってきましたので、これからは山側からも安心して、「木を使ってください」と言うことができます。 もう一つ、仕事をしていて思うのは、「国土保全のために木を使ってください」という伝え方は良くなくて、「木を使うといいんだ」ということを皆さんにわかっていただく必要があるということです。「山が得をする、森林が得するから木を使ってください」というメッセージではなく、「木を使うことによってこういういいことがあります」という伝え方を、行政もしていかなければならないと思っています。 国の中でもそのようなことを中心に議論がされるようになっている気がしていまして、私たちも非常に心強く思っているのが最近の状況です。 宮林かつての暮らしの中には木材や森林がとても身近なものでした。箸を使うにも飯を食べるにも木がふんだんに使われていたわけです。ところが、そこから離れた暮らしになってしまった今、森林のことをいきなり言われてもイメージしづらい。昔は暮らしが森林とつながっていましたが、つながらなくなってしまった今、木を使うことや、それがいかに良いことかをきちんと示すことが必要です。 そこで皆さんに伺いたいのは、日本には専門の企業やそうではない企業がたくさんありますが、いろいろな企業が木を使っていく方向にもっていくためにはどのような課題があるでしょうか。自分の会社に置き換えて考えていただいても結構です。 杉本個人的な意見も踏まえてお話ししますが、一番大きな理由としてコストの話を先ほどしました。そこにもう一つ、「お手入れ」もどうしても出てくる話題です。東京で暮らしていると、できるだけメンテナンス費用等のランニングコストが不要なものが正とされています。その部分のコストは技術開発費としてイニシャルに乗り、減価償却されていきます。家電や車が5年くらいで買い換えるという概念が日本の経済を支えている身体に良く、愛着が増し、価値が下がらないというメリットを、なんとかユーザーの皆さまにお伝えしていくことができればと思っています。 今はお手入れをするということが負のイメージになっています。手入れをすればさらに良いものになっていくということを皆さまにお分かりいただくことができれば、日本はすてきな国になっていきます。メンテナンスやお手入れの新たな概念をぜひ提供していければと思います。 宮林日本の文化にはわびさびがありますが、家の土台も磨けば磨くほど愛着がわき、そういうものが日本人の感性を作り上げてきました。そういうところにポイントがあるかもしれませんね。平井さんはどうでしょうか。 平井今のお話はそのとおりで、ファストフードのお店などに関してコンサルの方がよく、「店ができた時の状態に店を戻せばいい」と言います。メラミンであれば拭いて元通りになりますが、木は少しのことでも傷みが出てきますので、確かにメンテナンスの問題はあります。弊社も、既存店を見て回るとかなり傷のついたテーブルなどがあって、そういうものは一律変えていこうという試みはしていますが、一般の木材に対して価値を見いだせていない企業さんからすると無駄なコストと映ってしまいます。作る時のコストで見ても、木材を国産にすると高いというイメージがあります。建ぺい単価にすると金額として大した差ないのですが、木は高いというイメージが避けられてしまう原因になっているのかなと思います。 ただ、自分が店を作る時、どこで金額を圧縮するのか、どこにお金を使っていくのかというバランスを考えていけば決して使えないことはないと思っています。クライアント側から「1円でも安くしろ」というプレッシャーがかかると、デザイナーとしても引かざるを得ませんが。考え方を豊かにしていくしかないのかなと思います。 宮林やはり価値観を少し転換させていく、リオ+20でグリーンエコノミーという言葉を使いましたが、良さをきちんと評価しながら何度も使っていく構造を作らなければいけないということですね。門脇さんはいかがですか。 門脇素材という観点で考えた時、木造のもつイメージは茶室や学校ぐらいしかないと思います。丸ビルの地下では杭として使われていたり、先ほどのガードレールのように、「こんな場所にも使えるんですよ」というものを広くPRしていくことが大事だろうと思います。 また、鉄やコンクリートはライバルではなく、ハイブリッドという観点でコンクリートと木を一緒に使えないか、鉄と一緒に使えないかなど、他の材とうまく組み合わせて使いながら木を拡大していくアイデアが必要ではないかと思います。 宮林林業復活・森林再生を推進する国民会議などではたくさんの企業を抱えていると思いますので、ぜひそのあたりを強調して広げていただけるとありがたいですね。 門脇パンフレット等も作って一生懸命PRしているところです。 宮林恒次さん、木の良さをつなげていく時の課題はありますか。 恒次私が研究をしていてすごく大変なのは、人によって木に対する反応にすごくばらつきがあるということです。一般的に、自分が良いと思ったものに生体も反応するということがわかってきているので、ばらついている人に対して、「こういう人にはこの木がいい」「こういう人にはこの木」というように、バラエティ豊かに提案していくことが大切になるのかと思います。ただ、そのあたりは難しいですね。 宮林それぞれ感性が違いますから、それを科学的に評価することは難しいことです。平均点のように簡単にはいきません。そのような難しさの中で木というものを私たちの暮らしの中に入れていかなければいけないという難しさがあると思います。 林野庁はいろいろな事業を進めていますが、ソフト部門について新しい企画などを考えていますか。 末松これから必要なことは山の整備で、それは着実に進めているところです。間伐などの手入れに関して効率的な林業手法はいろいろな道が見えてきていて、それを着実に進めているところです。 進める上でさらに大切なのが、川下からの「木がほしい」という需要をもっと多くすることだと思っています。そこにはいくつか課題があって、一つはコストや規制の話です。コストの話は効率化や経済ベースの中でどうやっていくかということですし、様々な規制がコストに非常に影響しているということもわかっていますので、それをどのように合理化していくかということが私たちの大きな課題の一つだと思っています。 今は、木造の素晴らしい建物が皆の汗の決勝でできてきています。高コストのものをリーダーシップで無理をして建てるというケースが多い。それはとても美しい行為ですが、何度も役所と接触するなど大変なことをせず、頼めば爽やかにすぐに造れるという状態に向けて仕組みを見直していくことがひとつの課題だと思っています。 もう一つは、知ってもらうということが何よりも大切ではないかと思っています。規制の話もご相談を受けますが、できないと思い込んでいるものも意外に容易にできてしまうケースがとても多いのです。そのため、いろいろな良い事例をたくさん知っていただくことが大切ではないかと思います。役所では10年くらい前から、「広報は無駄な経費」とばかりに削られていますが、木材が良いことを伝え理解してもらう取り組みが役所としても大切になってくるのではないかと思います。 宮林おそらく、木を植えて切って使うという構造はずっと続けていくべき構造ですが、木を使うことの中に、使うことの良さや価値観の再生も重要になってくるのではないかと思います。 最後ですが、これから東京などの都市で木材を使っていくような大きな運動を展開する際にどのようにすれば良いか、アイデアを一人ずつお聞きしたいと思います。門脇さんからお願いします。 門脇今後のことを考えると、JAPICもいろいろな戦略を練る時だと思います。オリンピックはそのきっかけの一つになります。2020年に向けて、オリンピックに関連すること以外にも広がりを持たせながら木の良さを伝えていき、それをカタチにすることが一つです。その際、「木はやはりいいな」ということをPRして、オリンピックのあとも木がどんどん使われるようにすることが大切だと思います。 平井使う側の理解をどう促すかというところだと思います。今日は、自分は皆さんの中では異色です。規模も小さくあまりグローバルな考え方はしていません。どちらかというとエモーショナルで限られた世界の話をしていますが、大きく制度や法で動くとそのリスクが必ずあとで生じてくることがこれまでの流れではないかと思っています。日本も以前、木がなくなったから木を使うなとされていた時期があり、林業が衰退していきました。大きな制度で世の中を変えていくという考え方も必要ですが、同時に、木も時間をかけて育つものですから、地に根を張ったような考え方、人と人をつないでいくような地道な作業で下支えしていくような流れと両方を合わせながらやっていく必要があるのかなと感じています。 宮林森林を作るには100年かかります。そのような資源を有効に活用していく中では、つながりを大切にしていくことが大事な視点ということです。ありがとうございます。杉本さん、お願いします。 杉本先ほどソフトの話が出ましたが、私たち住友林業で設計をする際の話をしますと、ハードで木を使います。そうすると、木が反ったり割れたりする話になります。私たちは何にお金を支払っているかというと建築に支払っているわけです。建物の中をどうするか。しかし、木を使うことはそうではなく、医療費と教育費だということです。技術面・ハード面にかける費用とは別に、もうひとつ別の財布を持つということです。医療費でいえば、予防医学など様々な場面で木が有効で、その関連部分からお金をいただいてきます。教育費に関しては、頭が良くなるという実証から、教育環境を木にしようという話にならないでしょうか。こうした場所で少しずつ木を使うことの効果が出てくると、エンドユーザーの木化へのお金の使い方が少しずつ広がるのではないかと感じているので、今後はハードからソフトへの転換も議論していきたいと思っています。 宮林大切な話ですね。ソフト部門の関係です。恒次さん。 恒次データから普及していくことも一つですが、もう一つは木育です。長い目で、子どもたちに本物の木を教える活動が大切だろうと思っています。実験で、プリントの木目と本物の木目を大学生20名に見ていただき、どちらが本物かを示していただいたところ、半分以上の方がプリントの木目を本物と勘違いしました。このことにとても危機感を覚えています。そういうものを木だと思ってしまう人たちはこれからどうなってしまうのか、心配なところです。長い目で見た木育も、ひとつ重要なことだと思っています。 宮林これから私たちは、木づかい運動を森づくりの一つとしてさらに大きく展開していこうとしています。オリンピックも決まりましたので、開催に向かって木育・木化をしているところもあります。木を使っておもてなしをしていくという形を作り上げていく必要があると思いますが、林野庁の末松さんのアイデアはいかがでしょうか。 末松2020年の話ができましたが、今日は林野庁の職員がたくさん来ていますが、いろいろな基準作りや施設作り、オリンピックのコンセプトにどのように木を合わせていくか。時間的にはいい時期ではないかと思います。今日の話を踏まえて一つひとつ努力していきたいと思います。 宮林私たちにいま大きな転換期にいると感じています。木を使う暮らしをどう取り戻すかということではなく、国際社会にその良さを打ち出すことが大切ではないかと思います。長期的に50年、100年先を見ると、日本は人口が6000万人、7000万人に減っていきます。限りなく経済は縮小しますが、グリーンエコノミーとして木や本物の良さの中で経済を作り上げていけば、日本は世界に誇れる社会構造を作ることになるのではないか。その最初の一歩が、これからみなさんと一緒にやっていくオリンピックに木を盛り込んでいくことではないかと思います。 山側の人たちはとても苦労して木を植え大きくしてきましたが、大きくなった頃に衰退というどん底にあります。その中の多くは技術論、あるいは精神論といったものを木づかいの中に盛り込んでいく、そういうひとつの新しいスタートラインという位置づけで今後どんどん進めていき、さらにその先に向けて進んで行く必要があるのではないかと思います。どうもありがとうございました。 |
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