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『動き出した、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』
〜産官学連携で拓く、地球温暖化防止・生物多様性保全に貢献する木づかい〜
平成24年12月13日(木) 14:00〜16:30 「東京ビックサイト」レセプションホールB
主催/美しい森林づくり全国推進会議、(公社)国土緑化推進機構、経団連自然保護協議会
後援/林野庁、(社)日本林業協会
開催趣旨
開催趣旨
 2012年6月の「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」及び10月の「COP11(生物多様性条約第11回締約国会議)の開催等を契機として、「グリーンエコノミー」の創出や「自然資本」に配慮した企業活動への関心が世界的に高まりをみせています。とりわけ、2013年からはじまるポスト京都議定書の枠組みにおいても、木材製品のCO2貯蔵効果が評価されるとともに、本年9月に策定された「生物多様性国家戦略2012-2020」においては、持続可能な森林管理・利用に係る施策が幅広く位置付けられるなど、地球温暖化防止や生物多様性保全に貢献する森づくり・木づかいへの期待や関心が高まりつつあります。このような中で、我が国では木材自給率50%に向けた「森林・林業再生プラン」や「公共建築物等木材利用促進法」に基づく各種施策の本格的な実施を背景として、公共施設や住宅等の建築・土木業だけでなく、家具、日用品等の製造業、さらには小売業、サービス業、商社など幅広い業種の企業等による新たなビジネスモデルの創出に向けた取組がはじまっています。そこで、多様な企業が参画して森や木を活かした「グリーンエコノミー」の創出等に向けた取組を先導する諸団体などが一堂に会して、最前線の取組事例に学ぶとともに、多様な分野の連携・協働による新たな商品開発や消費対策の展望を議論するシンポジウムを開催します。
プログラム
動き出した、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム
1.開会・挨拶
  出井 伸之 (美しい森林づくり全国推進会議 代表)
  沼田 正俊 (林野庁長官)
2.基調講演
  動き出した、森と木を活かすものづくり・いえづくり 
 〜最前線の事例にみる、新たな木づかいの商品開発〜

  赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
3.概要報告1
  国産材自給率50%に向けた、次世代林業システム政策提言
 〜東北経済連合会・九州経済連合会との連携の広がり

  米田 雅子 ((社)日本プロジェクト産業協議会 森林再生事業化委員会 委員長、
  慶応義塾大学 特任教授)
4.概要報告2
  木材利用システム研究会の取組〜木材需要拡大に向けて
  井上 雅文 (東京大学アジア生物資源環境研究センター)
5.概要報告3
  生物多様性民間参画パートナーシツブ会員アンケートに見る、森づくり・木づかいの動向
  古田 尚也 (IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー)
6.概要報告4
  森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向
  末松 広行 (林野庁林政部長)
7.パネルディスカッション
 森と木を活かす「グリーンエコノミー」の実現に向けて
 〜産官学協働で拓く、木づかいを促す商流戦略〜

 <モデレータ>
  赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
 <パネリスト>
 米田 雅子、井上 雅文、古田 尚也、末松 広行の各報告者
8. 講評
 
 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
■ 概要報告
 国産材自給率50%に向けた、次世代林業システム政策提言
 〜東北経済連合会・九州経済連合会との連携の広がり
 米田 雅子((社)日本プロジェクト産業協議会 森林再生事業化委員会 委員長、
 慶応義塾大学 特任教授)
米田 雅子 今日は次世代林業システムと、東北経済連合会・九州経済連合会との連携について、お話したいと思います。
 私は、JAPICの森林再生事業化委員会から参りました。委員会の名称に事業化とありますように、企業がビジネスとして、色々な活動をしながら日本の森林を再生していこうという、大きな目標を持った名前になっています。 今日は先ず、私共のJAPICの活動についてご紹介したいと思います。現在、国産材自給率50%を目標に国が動いておりますが、JAPICもこれを実現するために一緒に活動しております。JAPICの国産材利用推進キャンペーンの取り組みや、その他様々な活動内容のご紹介をさせていただきます。その次に、九州経済連合会様、東北経済連合会様との連携についてもお話をいたします。
 先程の赤池先生のように、「面白い」お話ではないのですが、いま外材に席巻されている日本にあって、外材をどのように国産材に置き換えていくかをお話します。外材を国産材に置き換えるためには、色々な基盤整備もしなければいけないし、山から安定的に木材を供給できる体制を作っていく必要もあります。こうしたハードルを、企業の努力で、すなわち日本の技術開発力で、きちんとクリアして行こうというお話ですので、少し色が変わっていいのではないかと思っております。
 まずJAPICについてお話します。JAPICは正式名称を「日本プロジェクト産業協議会」と申します。会長は新日鉄住金の三村相談役です。170の企業と自治体・団体から構成され、非常に大きな組織です。そのうち私の所属する森林再生事業化委員会には、北海道から九州まで地方の経済連合会がすべて入っております。更に、王子製紙・日本製紙といった製紙会社、エネルギー、鉄鋼、セメント、測量、製材、機械、金融、シンクタンク、住宅、商社、建設、大手ゼネコンなどがはいっておりまして、当委員会は、非常に機動力に富んだ委員会となっております。
 先ずお知りおきいただきたいのは、私たちは政策提言するだけの組織ではなく、各企業がそれぞれの業務を通じて、実際の仕事の中で森林再生を推進している非常に活動的な団体だということです。
我が国における大規模森林所有者はどういうところかと見ますと、第1位が王子製紙、第2位が日本製紙、第3位が三井物産で第4位が住友林業となっております。これら企業もすべてメンバーですので、実際に森林を持っている企業も含まれているという特徴もございます。
 実際の活動経緯ですが、特筆すべきところとしましては、2010年3月に「次世代林業システム」というものを農林水産大臣に提案いたしまして、林野庁様で作成、進行されている「森林・林業再生プラン」を検討いただく際の参考資料の一つにしていただいたという経緯もございます。その後も様々な政策提言の傍ら、自分たち自身も活動を続けているという状況です。
 この図は「次世代林業システム」の全体像を示したものです。今までですと、森林林業というのは林業の方、木材産業の方が中心となり完結するイメージが強かったのですが、それを更に産業界が取り巻くように配置されている点に特徴があります。
 例えば建設業であれば、林建協働といって、森林作業のための道を開くためのお手伝いができます。また、林業機械は建設機械メーカーが開発しておりますので、そこで連携も取れます。商社も物流でお手伝いできますし、測量の方もGISのデータを森林に活せます。このほか、金融、観光、製造、鉄鋼、ガス、エネルギー産業、バイオマスなども含め、色々な産業が一緒になって広範囲な企業の力を結集し、循環型ビジネスで森林再生を図っていこうという理念です。
 右側の上の方に「シームレスな広域の森林整備」と書いてあります。シームレスの意味するところとしては、一つには、今までは業種区分があり、森林は「林野庁が主体で」と区切られていましたところ、業種の壁を越えて協働することで新しい相乗効果が産まれるのではないかという思いがあります。また、別の意味としまして、日本の森林には、私有林や公有林や国有林といった様々な区分があり、この区分のために国産材が割高になっている面があるのですが、この区分を排除して全体的な最適化を目指すことで日本の林業は自立型産業として成立するのではないかという期待感があります。
   こちらがJAPICの政策提言です。
 先ずは「木材自給率50%に向けた国産材利用の拡大」についてご説明いたします。
 現在、国産材が低迷しています。円高の影響もあります。需要低迷の影響もあります。そこで、「先ずは産業界が力を合わせて国産材を使っていこう」という運動を推進しています。同等のものであれば、外材ではなく国産材を選択する、これを企業が率先して行うことが何よりも大事だとの考えで取り組んでおります。
 実際に、国産材を使った様々な製品を企業が商品化していますが、その中で木を活かした住宅・まちづくりについてのリーフレットを制作いたしました。本日も受付の方に持って来ておりますので、ご関心のある方は是非お持帰りください。このリーフレットの特長は、国産材の使い道は、建築や住宅以外にもたくさんのあることに触れ、紹介した点です。今まで「木」の利用というと住宅、家がメインという感じでしたが、それ以外にもたくさん用途があるということを総合的に打ち出したカタログとしては日本初だと思っています。
 国産材利用の拡大に関する次の重点項目です。
 JAPICでは、生物多様性保全活動の切り口として、広葉樹林の循環活用をきちんとやっていこうという話をしています。環境団体の方とお話しますと、自然には手を入れない方がいいと考えておられる方が時々おられます。ところが、薪炭林として昔から循環型で使っている雑木林、広葉樹などは、30〜40年程度の年限で一度伐り、天然で萌芽するのを待つ、芽が出るのを待って育てる、それを循環型に計画的に繰り返していくことが必要です。このプロセスによって山の中に若い林から、年をとった林までできる、これが生物多様性にとっては重要なことなのです。もしも、手を入れないで放っておくと、かえってナラ枯れの問題なども出てきます。針葉樹や人工林については、今までもみなさん目を向けてこられたのですが、広葉樹についてもきちんと環境のことを考えながら循環的に利用し、多様な森造りをすることが重要なのではないかと考えます。こういったところから出た木材が、紙パルプの国産材比率をあげ、またバイオマスの原料にもなっていくということではないかと思っております。
 こちらは、国産材利用推進の次の例です。コンクリートの型枠ですが、こちらに国産材を利用すると十分に良い製品ができていますので、型枠の国産材利用を推進しています。
 右は、JASの認定に対する要望事項です。今、ツーバイフォー住宅の建築材を国産材で置き換えようとした場合、JASの認定が足かせとなってなかなか導入に至りません。現在、JAS規格改定は5年ごとに見直しが行われますが、5年が2回続けば10年が経過してしまいます。そこで、規格改定期間を短縮してほしいとか、もっと性能規定を入れてほしいといった要望を行っているところです。
 更には、炭素固定の評価制度をしっかりと産業界に根付かせようとか、国産木材輸出を拡大しようといった取り組みも推進しております。
 次に、木材の安定供給体制を確立するための基盤整備のお話です。
 山の中では、隣地の境界がどこからどこまでかわかりづらい。隣地は誰のものかがわからない。つまり境界が不明確であることが大きな課題となっています。そこで、GISなど情報技術を活用してきちんとした地籍調査を進めて行こうと提案しています。
このように森林デジタル情報基盤を整備しつつ、境界確認や森林の団地化、山肌を傷めない最適な路網の整備などについて、それぞれのメンバー企業がそれぞれの研究テーマとして取り組み、前に進めているという状況です。
 こちらは政策提言の3つめです。JAPICでは、「異種の道をつなぐネットワークづくり」というものに取り組んでおります。
 「道」というものには、市町村道や国道といった公共の道の他に、農道もある。林道もある。電力会社の管理道もあって、NTTの電波塔の管理道もある。民間の方も私道を持っているのです。こうした民間の道と公共の道をつなげることで、最小のコストで最大のネットワークを構築しようと考えています。このネットワークはあるときは命の道にもなるし、森林整備やインフラ整備のためにも使える。こういうネットワークを構築しながら、森林整備を進めるのが良いのではないかと考えています。この件については、岐阜県の飛騨高山で「異種の道ネットワーク検討会」を立ち上げて、この地域をパイロットモデルとして具体的に話を進めているところです。
 先程、沼田長官からもお話がありましたが、林業の機械化を推進するにあたっては、山の中に安価で壊れにくい路網を整備していく必要があります。そこで、鉄鋼メーカーさんにお願いして、従来の砂利の代わりに、雨が降れば固まるスラグを使った崩れにくい路網をより安く整備しております。また、セメント舗装についても、簡易舗装や生コン舗装、簡易転圧コンクリート舗装といった技術を利用して、今までよりも安価で崩れにくい道を開発してきております。
 それから、「東北の森林資源を生かした復興住宅の建設」ということで、東北の方でも一生懸命活動しております。
 具体的には、釜石市と大槌町、遠野市の2市1町で、森林を活かした復興住宅の建設を支援しております。その際、大事なことは、住宅は被災してしまいましたが、森林は健全であるということです。そこで、被災地の森林を伐ってきて、内陸の遠野で加工して釜石と大槌に復興住宅を建設しています。更に木材を加工する際は、製材は遠野の方の木工団地で加工しますが、合板は宮古の復旧した合板工場で加工しています。また、残った木くずは、新日鉄の釜石製鉄所に石炭火力発電用に買い取ってもらうという体制を構築し、すべてをお金に換えることによって、少しでも自立型の林業に近づけることを目標に取り組んでいます。
  こちらは、現実に地域の方々がデザインした「スクラムかみへい住宅」です。本プロジェクトでは、まず30坪で1,000万円という安価タイプの住宅を既に実現しております。もう一つは、もう少し高級な長期優良住宅対応の物も検討しておりまして2種類の住宅を実現する予定です。
 次は、九州経済連合会との連携についてです。
 九州の木材産業につきましては、もはや県産材の利用を推進というレベルは脱却したと考えております。木材の商流は、九州一円で流れておりますので、「県産材の時代から『九州材』の時代へ」ということを掲げまして、現在、九州経済連合 会内の研究会でアクションプランを練っているところです。
また、九州はアジアに近いことから、輸出も視野に入れた検討を行っております。輸出の前段階として、九州の産業マップを作成したところ、九州材をカスケード利用して行く中で、特に合板については、まだまだ余力があるということが判ってまいりました。そこで、大きな工場をもう一つ増設することで、バランス良くビジネス化できるのではないかと考えています。実際に九州での木材フローはどうなっているかを調べましたところ、九州では自給率が61%に達することが判明しております。
 東北経済連合会との連携につきましては、先程ご紹介した復興住宅の建設の他、東北全体で地域として木材をカスケード利用する取り組みを行っております。また、東北単位である程度規模をまとめ大規模化することによって、外材に対抗できる価格の国産材を安定的に供給する仕組みを構築することも重要となっております。このように利用と供給の視点から、今後東北の林業をどのように進めていくべきかを課題に、今後検討を進めて参りたいと考えております。そのため、今年の7月には「次世代林業東北サミット会議」を開きました。林野庁長官はじめ、たくさんの方に列席いただいて、キックオフの場とさせていただいたところです。
 私共の委員会では、各企業の方々が熱意を持って活動しておられます。本日ご紹介しきれませんでしたが、こちらの「日本は森林国家です」の中に、たくさんの事例が書いてございます。ご関心のある方はこちらの書籍をご覧いただければと思います。
 最後に「美しい森づくり全国推進会議」の皆様方に申し上げます。今後益々、国産材利用に向けてがんばって行きたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。
 ご静聴ありがとうございました。



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 木材利用システム研究会の取組〜木材需要拡大に向けて
 井上 雅文(東京大学アジア生物資源環境研究センター)
井上 雅文 本日は、「木材利用システム研究会」の取り組みについて話をするようにとお題を頂戴しております。まずは、この研究会を発足するに至った経緯とその背景から簡単にお話しさせて戴きたいと思います。 
 さて、戦後の復旧・復興期において、日本の林業、木材利用政策は、「木はもうこれ以上使わないでおこうね」が基調でした。そこでは、資源の枯渇問題や都市耐火における技術的な課題など、やむを得ない事情があったのですが、その後、日本では、非常に長い期間にわたって、木材利用にとっては不遇な時代が続くことになりました。
 ところが、最近では、「地球温暖化対策」という観点が、木材の利用促進を牽引しています。例えば、2007年にIPCCが第4次評価報告書を公表しましたが、その中では、「林業部門における活動は、低コストで排出量の削減及び吸収源の増加の両方に大きく貢献する」と示しています。地球温暖化対策には高額な経費がかかるものですから、各国の政策決定者は、この「低コスト」というところに魅力を感じたのですね。「木材の利用促進によって低コストで地球温暖化対策が実施できるんだ」との認識がすすみ、木材をはじめとするバイオマス利用が世界中で促進されてきたわけです。
 そのような中、日本でも、「京都議定書目標達成計画」に基づく政府文書において「木材の利用を…(中略)…促進する」と記述され、これを根拠に、今日まで様々な政策が展開されてきました。2009年の9月に実施された総選挙では、民主党のマニフェストにおいて、「木材自給率50%を目指し、木材産業を活性化させる」と記載され、これが具体化されました。例えば、2009年の12月25日に「森林林業再生プラン」が公表され、翌年の2010年10月1日には「公共建築物における木材利用促進法」が施行されました。この総選挙では、自民党などの政党においても「木材利用促進」が公約に掲げられていたので、この法律は満場一致で成立したと伺っています。 さて、話は変わりますが、今年になって、国産材の価格が著しく暴落しています。
 こちらの図は、長期的な国産材価格の推移です。価格下落は今に始まったことではなく、長期的に見てもどんどん落ちてきていることがわかります。このような国産材価格の下落の理由は、長期的な視点でみると、やはり円高の影響が大きいでしょう。1985年の「プラザ合意」当時は、1ドルが240円でしたが、これが今や80円です。円の価値は3倍に上がっています。例えば、30年前に240円で売れていた商品は、今は80円でしか売れないのです。要するには、当時、3万円で売れていた杉の中丸太であれば、1万円でしか売れないのはあたりまえなのです。怒られるかもしれませんが、国際競争・国際流通という観点から木材価格を見ると、現在の国産材の価格は適性なのかも知れません。木材は国際流通商品ですから、国産材がたとえ国内の流通に限られる場合であって、国際競争力を意識して価格を考える必要があるのです。
 さらに、今年になった頃から、木材の価格下落が目立ち、“暴落”と言っても過言ではないかも知れません。この価格下落の理由は単純で、「需要が無いところに供給が過多になった」ことが最大の要因でしょう。需給のミスマッチの原因を需要側に求めて、「需要側の体制整備が遅れている」と言われることがありますが、はたしてそうでしょうか?
 2009年の12月25日に「森林林業再生プラン」が公表され、翌年2010年には、検討委員会が開催され「どうやったら国産材自給率50%を達成できるか」検討を行っていました。その頃は、多くのハウスメーカーやビルダーは国産材の使用に前向きだったのですが、なかなか国産材が供給されなかったので、残念な状況が続いていました。住宅生産者など川下の“需要側”は、市場経済において短期のビジネスをしているので、「政府が国産材と言い出しているようだ。それは早速使ってみようか……。」 と、とても反応が早いのです。一方計画的な経済のもとに長期的な経営をしている川上の“供給側”はなかなか反応することができないのです。2年くらいたって、ようやく状況が整備されて、山から木が出てきた頃には、既に市場は必要に迫られて外材にシフトした後だった……というミスマッチが起こります。これが国産材価格の暴落という残念な結果につながっているのでしょうね。
 結局のところ、売る方は「安定需要をしてくれるなら売ってやるぞ」、買う方は「安定供給してくれるなら買ってやるぞ」……お互いに“売りたい気持ち”“買いたい気持ち”はあるわけですが、供給と需要が安定しないものですから、いつまで経ってもその場しのぎのバラバラなミスマッチ状況が続きます。これを打破するには、この両者の著しく異なる経営スタイルをつないでいくためのインターフェースが必要なのではないでしょうか。
 私は大学にいるものですから、教育システムな観点から川上と川下の課題について少しお話ししましょう。大学の教育課程では、山から木が出るまでは「林学」という分野が担当し、山から伐出された木材については「林産学」という分野が担当しています。「林学」の中には林業政策や森林計画など社会科学の分野があります。一方、「林産学」は自然科学分野に傾倒したために、社会科学のアプローチを失ってしまいました。昔は、「木材商学」などの講座もあったのですが、日本は木材を輸入する立場つまり買い手となったために、マーケティングは必要ないと考えられたわけです。売る方が、つまりはカナダやアメリカやヨーロッパがマーケティングしてくれますから、日本では木材商学など必要なくなったのです。このような理由から、日本においては、現在、木材の流通から利用にいたる部分の社会科学が全く欠落してしまっている状態なのです。
 そこで、今こそ、木材の需要拡大を図るためにも、また国産材が国際競争力を持って流通されるためにも、川上と川下を有機的に繋ぐシステムとそれを支えるための学術が必要であると考え、「木材利用システム研究会」を発足しました。
 「木材利用システム研究会」では、主な対象として、木材利用の「マーケティング」と「環境評価」「政策」の3つを中心に検討を行っております。
 「マーケティング」については、企業などの実務において経験的に獲得されてきたマーケティングの手法と、科学的な手法によって理解される客観的なマーケティングが、産学のコミュニケーションによって融合され、木材業界が抱える課題を包括的に解決されることが重要だと考えています。
 次に「環境評価」ですが、例えば、10〜15年前から林野庁をはじめとする多くの団体で木づかい運動や木育が実施されてきたにも関わらず、いまだに30%程度の国民は、「環境を守るために木材は使わない方がいい」と考えているようです。この国民意識の根底にあるものは何なのでしょうか。「環境評価」については、評価方法論に関する基礎的なディスカッションから、木材利用の環境評価を通じた国民の理解醸成の方法に至るまで、包括的な検討をおこなっております。
 「政策」に関しては、先にも述べましたように、日本では、これまで政策によって抑制されていた木材利用が政策によって促進されようとしています。また、バイオマス資源としての木材は、これまでのマテリアル利用に加え、エネルギー利用の割合が大きくなってきています。このような流れをどのように受け止め、どのような対応が適当かを考えることは重要なテーマとなるでしょう。
 木材利用システム研究会は、毎月継続的に実施している月例研究会を中心に活動しています。月例研究会では、「環境評価シリーズ」「政策シリーズ」「マーケティングシリーズ」など、3ヶ月程度ごとにテーマを定めてディスカッションしています。また、9月頃には、研究発表会を含む拡大研究会を実施しています。さらに、当会には60社程の企業会員がおられますので、「木材産業連絡協議会」を設立し、産官学の情報交換会を開催するとともに、会員企業の若手の方を対象にWBC(Wood Based Communication)と題した「研修会」を年に2回開催しています。
 これは、最近の月例研究会のテーマです。今年の春には、「環境評価シリーズ」として、4月には当時の林野庁の皆川長官に来ていただいて、HWPすなわち“木材中に貯蔵される炭素こそが地球温暖化対策貢献である”というお話をしていただきました。それから、5月にライフサイクルアセスメント、7月に電力固定価格全量買い取り制度に関するご講演とともにディスカッションを行いました。秋になってからは、「マーケティングシリーズ」として、10月にはFLTというフィンランドの集成材製造会社のトップにお越しいただき、「海外から見た日本の木材産業におけるビジネスチャンス」についてお話を伺いました。このテーマを換言すると、「日本の木材産業における脆弱性」となるわけですから、日本の木材産業における課題について深く考察することができました。これを受けて、11月には伊万里木材の林社長に「国際競争力を持つためのサプライチェーンマネージメント」についてご講義いただきました。また、12月には、筑波大学の立花さんに上述の内容を総括して、貿易関係から木材利用、流通について議論していただこうと考えております。
 木材利用システム研究会のホームページでは、「木力検定」を公開しています。問題数は800〜900程度になっていると思いますが、木材を理解して頂くための問題を用意していて、この中からランダムに20問抽出して、インターネット上で回答して戴けるシステムとなっています。例えば、「木材に含まれる炭素というのは、樹木が成長するときに吸収されたものです。これはどこにあった炭素ですか?」という問題があります。この問題は意外と正解率が低いのです。光合成というキーワードを思い出せば、当然、空気の中にあった炭素であることは明白なのですが、土の中と答える方が結構多かったりします。このような問題に回答していただいて、所定の点数をクリアしますと、インターネット上で合格証書を発行することになっています。好評を戴いていますので、皆様も、是非、挑戦してみてください。
 また、各問題の解説を充実させた書籍を出版しました。こちらも是非ご利用いただければと思います。よろしくお願いいたします。
 これは、木材利用システム研究会に関する詳細情報です。一度、目を通していただければと思います。
 最後に、今回の話をまとめさせていただきます。
 北欧、ドイツ、オーストリア……やはり、このような林業先進国に見習う点は多いと思います。見習わなければならないことはいろいろありますが、一番は『国際競争力を意識した商品開発』ではないでしょうか。
 “地産地消”……とても素晴らしい言葉ですが、木材は国際流通商品であることを忘れてはいけません。産地は消費をもっと広域で考えるべきで、“地域外に向けて商う”、ビジネスすることが重要です。すなわち『地産外商』が重要だと思います。もっと視野を拡大するならば、木材産業は輸出産業として発展していくことを目指すべきだと考えています。その際、現時点では、東アジアが輸出の対象地域ですが、将来的には東南アジア地域もマーケットとして捉えることができるように、きちんと準備していかなければならないと考えています。
 さらには、「マーケティング」「環境評価」「政策」……木材の需要拡大には、やはりこれが重要です。まずは、マーケティングの発想そのものが重要です。日本の木材産業においては、これが欠落している場合が多いのではないでしょうか。まずは、人材育成のレベルから、改革が必要だと考えられます。
 また、ファイナンスの評価も重要です。これにきちんと取り組んでいくべきだと思います。8月くらいに岐阜県の県有林を三菱UFJリースが管理すると公表されたことがあります。そのとたんに、三菱UFJリースの株価が上がったというのです。要するには、一般投資家が、森林ビジネスあるいは木材ビジネスに対して、投資対象として興味を持っていただけるようになってきたということです。一般の投資家が木材産業に対して魅力を感じ、投資していただけるような環境を整えていくことが必要だと思います。投資家の目は厳しいですから、今までのようにいい加減なことはできません。補助金を使ってやってきたような適当なこともできなくなります。こうした環境が整ってこそ、我が国の木材産業が国際競争力を持つ時代がくるのではないかと考えています。
 それともう一つ「環境評価」。これに関しては先ず、木材は森林で生産される数少ない我が国の「資源」なのだ、ということを国全体で今一度考える必要があると思います。「政策」としましては、この森林資源、あるいは木材資源の活用には、総力的な政策が必要だと考えます。単に林野庁だけで済む話ではありません。住宅を建てているのは国土交通省ですし、紙、建材、エネルギーを管轄しているのは経済産業省です。こうした関係省庁が総力をあげて、木材資源活用の問題に取り組んでいく必要があると考えます。
 どうもありがとうございました。




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 生物多様性民間参画パートナーシップ会員アンケートに見る、
 森づくり・木づかいの動向
 古田尚也(IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー)
古田尚也 私は、今までの皆さんのお話とはちょっと違って、生物多様性という視点から、この木づかいの問題、そして企業の関わり、こういった問題についてご紹介をさせていただきたいと思います。
 今日お話するのは、生物多様性民間参画パートナーシップの活動です。
 生物多様性民間参画パートナーシップというのは、2年前に名古屋で開催された生物多様性のCOP10で作られたもので、経団連の自然保護協議会とIUCNで事務局を行っております。今日は、この生物多様性民間参画パートナーシップの事務局の立場でご紹介させていただきたいと思います。 生物多様性条約の中でも、生物多様性を保全して行くためには企業による協力、企業の取組みが欠かせない、そういう認識が過去10年位の間に徐々に大きくなっております。特に、2年前に名古屋で開催されましたCOP10には、多くの企業が参加されたということで記憶に残っております。このCOP10では、生物多様性に関する民間企業の取り組みを促進することを目的として、マルチステークホルダー・イニシアチブの生物多様性民間参画パートナーシップが、経団連、日本商工会議所と経済同友会の呼びかけで発足いたしました。これには環境省、農林水産省、経済産業省、そしてIUCNの日本プロジェクトオフィスが協力しております。
 生物多様性民間参画パートナーシップは、発足時約400のメンバーで発足したわけですが、現在500を越える組織が会員となっております。そのうち、ほとんどを企業が占めています。生物多様性民間参画パートナーシップに参加する為には、ここにあります経団連の「生物多様性宣言 行動指針」、これに「コミットする、これを実施することを約束する」ことが条件になっております。会費は無料です。お手元の資料の中にA4サイズ半分のチラシが入っていると思います。生物多様性民間参画パートナーシップと書いてありますが、後ろに生物多様性民間参画パートナーシップ行動指針という7つの指針が記載されています。これは、経団連の「生物多様性宣言行動指針」と同じものですが、この7つの項目を実施していくことが、このパートナーシップの主な取組みの基礎になっております。
 具体的にこのパートナーシップはどういう活動をしているかということですが、基本的にはWEBサイトを作りまして情報提供、共有を行っております。また、ニュースレターを電子メールで発行しております。
 また、他のイニシアティブとも連携しておりまして、その内のひとつがフォレストサポーターズとの連携となっております。これは、昨年の2011年が国際森林年であったことをきっかけとして行われたもので、2011年2月には共同宣言を締結して、お互いに共同して事業を行ったり、会員を相互に勧誘する、こういったことを行っております。本日のこの会合も、こうした流れの中で参加をしていると御理解いただければと思います。
 このような活動と共に柱となっているのが、事業者会員向けのアンケートです。正式には2011年から開始いたしましたが、予備的に2010年にも実施しておりまして、2010年から今年まで3年連続で実施しております。事業者会員向けアンケートでは、企業がどのような形でこの生物多様性に取り組んでいるかを把握することを目的にしております。
  ここで少し結果をご紹介します。
 例えば、御社の経営理念、経営方針、環境方針に、生物多様性保全の概念が盛り込まれていますかという質問をしています。2010年の結果をみますと、盛り込まれていると答えた企業は50%でございました。それが2011年には80%になり、2012年の今年のアンケートで85%に達しております。
 次に、名古屋のCOP10で採択された大きな成果として愛知目標があります。
 これが「2020年に向けた世界的な生物多様性に関する20の目標」ですが、これについてどの程度ご存じですかを尋ねました。その結果、愛知目標についてすでに詳しく検討したとの答えが26%、目を通したのが70%ということで、ほとんどの回答者の方がこの愛知目標がどういうものであるか、知識を持っているということが分かった訳です。
 もう一つのアンケート結果です。
 2011年から2020年は、実は国連によって国連生物多様性の10年と定められています。これについてどの程度の方が知っていますかと聞いたところ、96%の方、つまりほとんどの会員企業の方が国連生物多様性の10年というものについて知っていることが分かりました。アンケート結果から、COP10をきっかけに、かなり多くの企業の方が生物多様性に関する知識、概念について学ばれている、更に、企業方針などにも盛り込まれていることが分かった訳です。これからは、こうした企業方針を実際にどうやって具体的に企業の活動の中で実施していくのか、ということが大きな課題だと考えます。
 こうした事もありまして、今年のアンケートでは、具体的に企業の中で生物多様性に関してどのような取り組みをしているのか、という事例をあげていただいております。その結果、182の事例をお寄せいただきました。今回、このシンポジウムに参加するにあたり、この中で一体どれ位の事例が森林に関する活動だろうと数えてみましたところ、実に182の内53の事例が森林に関するものでありました。これは、驚くべき数字ではないかと思います。日本の企業は以前から森林に関する活動を熱心に取り組んできた理由を、どうしてだろうと以前から考えていたのですが、先ほど、井出代表からも話がありましたように、一つは、日本では皇室も一緒になって植樹や育林に長年取り組んできたことが挙げられます。また、ジャレド・ダイアモンドという人が書いた文明崩壊という本にありますが、「江戸時代、文明が滅びなかった一つの理由は江戸時代に植林が行われたことだ」と書かれています。日本人は意識していませんでしたが、この植林、森を大切にするという文化が基礎的なところで企業の人も含めて根付いているのではないかと思いました。
 生物多様性民間参画パートナーシップは、国内の取組みですが、海外の他の国とも連携をしております。
  昨年の12月に、経団連会館で第1回のグローバルパートナーシップ会合を開きまして、10カ国から各国で取り組んでいる企業と生物多様性に取り組んでいる人達に集まっていただき会議をいたしました。
 今年の6月にリオ・デジャネイロで開催されたRIO+20には、経団連自然保護協議会の佐藤会長が参加されまして、日本での活動について国際的に紹介をいたしました。
 また、今年の10月にインドのハイデラバードで開催されたCOP11でも日本の取組みを紹介しました。このように、各国の人達と交流、情報交換をするといった活動を進めています。
 更に、COP11では、各国の取り組みを進めている人達と一緒に、「ビジネスと生物多様性グローバルパートナーシップサポート宣言」も採択しております。
 10月にインドで開催されたCOP11では、決議XI/7「ビジネスと生物多様性」の中で、経団連の「生物多様性宣言と行動指針」が企業の生物多様性保全への取組みを進めるひとつの例として決議文の中に紹介されております。このように、生物多様性の分野においても企業の取り組みに対する期待が非常に高まってきておりまして、実際に活動が進められておりますが、日本においては、特に森林というものが中心になっているということであります。こういった活動を通じて、生物多様性の世界においても森林の保全、そして森林の持続可能な利用、これらが一つの推進力になっているのではないかと思うわけでございます。
 ご静聴ありがとうございました。


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 森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向
 末松 広行(林野庁林政部長)
末松 広行 皆様からお話を伺って、「こういう事を念頭に行政は進めていかなければいけないんだ」ということがよくわかりました。さて、私の方から「森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向」と題しまして、簡単に最近の動向を説明したいと思います。
 その前に、こうした機会にいつも触れているお話を少しさせていただこうと思います。世界の陸地は、今3割ぐらいが森に覆われていると言われていますが、300年程前までは5割が森林に覆われていたと言われています。つまり、それだけ森は減っている、だから森は守らなければいけないということです。実際、森がなくなると共に文明が消滅し、また文明が他の所に移っていくということがあったのが世界の歴史です。
  一方、それに比べて日本は、ずっと国土の2/3が森のまま続いてきたというような状況です。国際的な交渉等をするときに途上国の人に会うと、今は「森を切ってはいけない」、「農地開発をしてはいけない」などの話がたくさんでます。ブラジルの人がこういう話をします。直接話したので実話です。「これから農地開発をしたい、森を切りたい、とすると2億ヘクタール農地を増やせる」こう話すと、先進国は、「それはダメだ、貴重なアマゾンや森が失われるではないか」と言うそうです。途上国の人達は、「アメリカもイギリスも覆われていた森を全部切ってきて、途上国に残された森を切るなと怒るのはおかしいのではないか、我々に森を切るなと言うのだったらあなた達のところも森を戻せ」と言います。世界中で森林の問題は非常に難しい側面があると思います。今残っている森林をこれ以上減らしてはいけないとみんな思いますが、それは単純な問題ではないと思います。
 そんな中で、日本は先人の努力によって森林の面積をずっと維持してきています。加えて最近は森林の蓄積量も増えているということです。日本において、森林はずっと豊かだったわけではありません。江戸時代前には、お城を作るために木は切られましたし、それ以降も薪炭林としてエネルギーの為に木は切られました。住宅の為にも木は切られてきて、決して豊かではないという状況に一度なってきたわけです。ぎりぎりのところで森を消滅させずにきたというのが日本だと思います。
 こうした努力によって、昭和40年と比べましても今蓄積量は倍以上になっているという状況です。学者の先生方によっては史上最大の蓄積量とおっしゃる方もいらっしゃいます。ただ、それでいいのかというと、そうではない。「手入れがされていない」、「森の蓄積量が増えてきた一方で、十分に上手く使っていない」というのが現状だということです。行政なのですぐ言い訳をするのですが、今は使わなくてはいけない時代、しかしあまり使ってはよくない時代もあったのだということです。本当はもう少し前からやっていればよかったのですが、今こそ木を使っていくことが大切だと思います。
 「公共建築物等木材利用促進法」の話をしたいと思います。木を使うということであれば、国自ら率先して木を使おうということで法律ができました。国においては、国が作る低層の公共的な建築物は、原則すべて木造化しようということにしています。こうして、国の施設は木造で作るということになりました。従来ですと、林野庁が「木を使いましょう」と言っても、「それはあなたたち森林行政とか林業を担当しているからでしょう」ということになるのですが、そうではなく国土交通省の側、作る側がこれからそうしようと踏み切ってくれたところが、この制度の非常に素晴らしい点だと思っています。
 各都道府県や自治体でも、ものすごい勢いで木材利用方針を作っていただいています。
 都道府県レベルではすべて方針を策定いたしまして、現在市町村レベルで方針を作っている段階になっています。スライドでは、緑の自治体が、既に方針を策定したところです。都道府県や市町村の方が来られるとき、わざとこの日本地図をだして、「あなたのところは塗れていますか」と聞くのです。利用方針を作ると、これから自分達の地域で作る学校、幼稚園は木造にしようとか、老人ホームも木造にするように働きかけていこうと言っていただけます。若干の傾向ですが、都市部の自治体は意識が低いというのがありまして、このあたりが課題ではないかと思っています。
 そこでふと疑問がわいてきますのは、林野庁や国土交通省が「木を使いましょう」と言うのですけど、本当に木を使うといいのかということです。この疑問点について調査を進めますと、色々なことがわかってきました。私達がよく例にするのは、インフルエンザで学級閉鎖になる割合です。毎冬、一般の教室だと6%位学級閉鎖になるそうですが、木造または木質内装だと2〜3%になるというデータがあります。この現象は理屈もわかっていて、木材には湿度の調整能力、調湿能力があるからです。加湿器を置けばいいという話もありますが、木材にはそれだけではない魅力や効能がいっぱいあるのだと思います。こうした木材の様々な魅力が、だんだん分かりつつあるということです。お医者さん達も木の家にしようという運動をしてくださっています。この運動は、もともとはシックハウスを無くすために、ホルムアルデヒド等を無くそうという運動がスタートでした。きっかけは、あるお医者さんが念願の診療所を作って みたらお医者さん本人も具合が悪くなるし、患者さんもかえって気分が悪くなってしまう、そこでシックハウスはよくないという運動を開始されました。木造を推進する運動のおかげで、今はそういう問題はほとんど解決していると思います。
その次は断熱です。台所やトイレ、お風呂が寒いと老人に非常によくないので、断熱をきちんとしようとことになりまして、そういう家を造っていったら、やはり木で造ると健康に非常に良いということがわかってきました。最近は、木の香りの点にも注目されています。順天堂大学の先生の研究によると、木に囲まれて生活すると、アルツハイマーなどの病気の進行が、香りによって抑制されることがわかってきました。
 このように、「木を使うことが良い」と、みなさん言っていただけるようになったので、堂々と木を使ってくださいという時代になってきたのではないかと思います。良い事例がいっぱい出てきています。今は1つの事例を作るのにものすごく汗と涙のドラマがありますが、それを解決していくのが行政庁の課題ではないかと思っています。
 もう一つは、木を使う時に必ず出る「残り」の問題です。板を作った後は必ず残りがでます。この点に着目して、木質バイオマスという新しいエネルギー源の可能性が出てきているということです。木質バイオマスは、再生可能エネルギーで地球温暖化を防止する効果があると共に、原料が国内産ですので、原油を中東から買って料金を外部に払うということではなく、燃料代を山の中に払えるというメリットがあります。また、電力源としましても、お日様まかせ風まかせではない安定電源だというメリットもあります。こういうことも推進していければいいと思っています。ただ、木質バイオマスもなかなか簡単ではない点があります。風力発電、太陽光発電は、施設を作ったら自動的に太陽が照ってくれる、風が吹いてくれるという特徴があります。一方、木質バイオマスには、原料を常に集めなければいけないという問題があります。つまり発電事業者や熱利用の事業者としては面倒くさいということです。
 その代わりに地域に必ず燃料代としてお金が還元されるというメリットがありますので、こうしたメリットの広報も含めて、これから推進していかなければいけないと思います。個人的には、最近事業仕分けがあって「木質バイオマスの施設の支援をしたい」と林野庁が言ったら、「それは2重補助になるのでダメだ」と仕分けられてしまい、少ししょげています。ただ、多くの方々が別の観点や色々な面から「これは必要ではないかと、是非応援していきたい」と言ってくださっています。こういう事を決めるのは政治でありますが、色々な有識者の方のご意見を踏まえて、行政としては対応していこうと思っています。
 こちらは、バイオマス発電の一例です。最近出来た発電所ですが、5000キロワットの発電所で、発電所内で生まれた雇用が17名、山で生まれた雇用が38名と言っていました。5000キロワットの発電所を1年まわせば10億から12億の電力収入が入ります。売電という面では、太陽光ならもっと収入があります。バイオマス発電での買い取り価格は、25.2円〜33.6円ですが、太陽光発電の買い取り価格は42円ですので、同一発電量あたりでは太陽光の方が収入は良い。最も、裏を返せば、利用者の負担は太陽光の方が高いということです。いずれにしても、バイオマス発電では、それだけの収入が山間部に入ります。例えば、平均的な年収を500万円と仮定して、10億円を500万円で割ってみると、およそ200名分の雇用ということで、地域の経済に与えるインパクトは大きいのではないかと思っています。
 次に、来年の予算に向けて我々が検討している話をさせていただきたいと思います。
 「地域材活用促進支援事業」ということで2番目に書いてあります。これまで自動車や家電について、いろんな販売促進施策としてポイント制度がありましたが、この例に倣って、地域材の需要を喚起するために木材利用促進のインセンティブ制度を作ったらどうかと考えています。要求は55億円と書いてあります。やはり大切なことですから、もっと増やして要求したいと思っていますが、これはどうなるかわかりません。それから、(木造)公共建築物に対しては、やはり支援をしていこうと思います。木造で公共建築物を造るのが当たり前になったら支援は必要ないと思いますが、最初は少し支援をしてあげたいと思っています。木質バイオマスの話も、これから川下側で需要をきちんと作るということに対して、林野庁としても支援を進めていきたいと考えています。
 簡単ですが、私の方からの説明は以上でございます。どうもありがとうございました。



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