今日は次世代林業システムと、東北経済連合会・九州経済連合会との連携について、お話したいと思います。
私は、JAPICの森林再生事業化委員会から参りました。委員会の名称に事業化とありますように、企業がビジネスとして、色々な活動をしながら日本の森林を再生していこうという、大きな目標を持った名前になっています。
今日は先ず、私共のJAPICの活動についてご紹介したいと思います。現在、国産材自給率50%を目標に国が動いておりますが、JAPICもこれを実現するために一緒に活動しております。JAPICの国産材利用推進キャンペーンの取り組みや、その他様々な活動内容のご紹介をさせていただきます。その次に、九州経済連合会様、東北経済連合会様との連携についてもお話をいたします。
先程の赤池先生のように、「面白い」お話ではないのですが、いま外材に席巻されている日本にあって、外材をどのように国産材に置き換えていくかをお話します。外材を国産材に置き換えるためには、色々な基盤整備もしなければいけないし、山から安定的に木材を供給できる体制を作っていく必要もあります。こうしたハードルを、企業の努力で、すなわち日本の技術開発力で、きちんとクリアして行こうというお話ですので、少し色が変わっていいのではないかと思っております。
まずJAPICについてお話します。JAPICは正式名称を「日本プロジェクト産業協議会」と申します。会長は新日鉄住金の三村相談役です。170の企業と自治体・団体から構成され、非常に大きな組織です。そのうち私の所属する森林再生事業化委員会には、北海道から九州まで地方の経済連合会がすべて入っております。更に、王子製紙・日本製紙といった製紙会社、エネルギー、鉄鋼、セメント、測量、製材、機械、金融、シンクタンク、住宅、商社、建設、大手ゼネコンなどがはいっておりまして、当委員会は、非常に機動力に富んだ委員会となっております。
先ずお知りおきいただきたいのは、私たちは政策提言するだけの組織ではなく、各企業がそれぞれの業務を通じて、実際の仕事の中で森林再生を推進している非常に活動的な団体だということです。
我が国における大規模森林所有者はどういうところかと見ますと、第1位が王子製紙、第2位が日本製紙、第3位が三井物産で第4位が住友林業となっております。これら企業もすべてメンバーですので、実際に森林を持っている企業も含まれているという特徴もございます。
実際の活動経緯ですが、特筆すべきところとしましては、2010年3月に「次世代林業システム」というものを農林水産大臣に提案いたしまして、林野庁様で作成、進行されている「森林・林業再生プラン」を検討いただく際の参考資料の一つにしていただいたという経緯もございます。その後も様々な政策提言の傍ら、自分たち自身も活動を続けているという状況です。
この図は「次世代林業システム」の全体像を示したものです。今までですと、森林林業というのは林業の方、木材産業の方が中心となり完結するイメージが強かったのですが、それを更に産業界が取り巻くように配置されている点に特徴があります。
例えば建設業であれば、林建協働といって、森林作業のための道を開くためのお手伝いができます。また、林業機械は建設機械メーカーが開発しておりますので、そこで連携も取れます。商社も物流でお手伝いできますし、測量の方もGISのデータを森林に活せます。このほか、金融、観光、製造、鉄鋼、ガス、エネルギー産業、バイオマスなども含め、色々な産業が一緒になって広範囲な企業の力を結集し、循環型ビジネスで森林再生を図っていこうという理念です。
右側の上の方に「シームレスな広域の森林整備」と書いてあります。シームレスの意味するところとしては、一つには、今までは業種区分があり、森林は「林野庁が主体で」と区切られていましたところ、業種の壁を越えて協働することで新しい相乗効果が産まれるのではないかという思いがあります。また、別の意味としまして、日本の森林には、私有林や公有林や国有林といった様々な区分があり、この区分のために国産材が割高になっている面があるのですが、この区分を排除して全体的な最適化を目指すことで日本の林業は自立型産業として成立するのではないかという期待感があります。
こちらがJAPICの政策提言です。
先ずは「木材自給率50%に向けた国産材利用の拡大」についてご説明いたします。
現在、国産材が低迷しています。円高の影響もあります。需要低迷の影響もあります。そこで、「先ずは産業界が力を合わせて国産材を使っていこう」という運動を推進しています。同等のものであれば、外材ではなく国産材を選択する、これを企業が率先して行うことが何よりも大事だとの考えで取り組んでおります。
実際に、国産材を使った様々な製品を企業が商品化していますが、その中で木を活かした住宅・まちづくりについてのリーフレットを制作いたしました。本日も受付の方に持って来ておりますので、ご関心のある方は是非お持帰りください。このリーフレットの特長は、国産材の使い道は、建築や住宅以外にもたくさんのあることに触れ、紹介した点です。今まで「木」の利用というと住宅、家がメインという感じでしたが、それ以外にもたくさん用途があるということを総合的に打ち出したカタログとしては日本初だと思っています。
国産材利用の拡大に関する次の重点項目です。
JAPICでは、生物多様性保全活動の切り口として、広葉樹林の循環活用をきちんとやっていこうという話をしています。環境団体の方とお話しますと、自然には手を入れない方がいいと考えておられる方が時々おられます。ところが、薪炭林として昔から循環型で使っている雑木林、広葉樹などは、30〜40年程度の年限で一度伐り、天然で萌芽するのを待つ、芽が出るのを待って育てる、それを循環型に計画的に繰り返していくことが必要です。このプロセスによって山の中に若い林から、年をとった林までできる、これが生物多様性にとっては重要なことなのです。もしも、手を入れないで放っておくと、かえってナラ枯れの問題なども出てきます。針葉樹や人工林については、今までもみなさん目を向けてこられたのですが、広葉樹についてもきちんと環境のことを考えながら循環的に利用し、多様な森造りをすることが重要なのではないかと考えます。こういったところから出た木材が、紙パルプの国産材比率をあげ、またバイオマスの原料にもなっていくということではないかと思っております。
こちらは、国産材利用推進の次の例です。コンクリートの型枠ですが、こちらに国産材を利用すると十分に良い製品ができていますので、型枠の国産材利用を推進しています。
右は、JASの認定に対する要望事項です。今、ツーバイフォー住宅の建築材を国産材で置き換えようとした場合、JASの認定が足かせとなってなかなか導入に至りません。現在、JAS規格改定は5年ごとに見直しが行われますが、5年が2回続けば10年が経過してしまいます。そこで、規格改定期間を短縮してほしいとか、もっと性能規定を入れてほしいといった要望を行っているところです。
更には、炭素固定の評価制度をしっかりと産業界に根付かせようとか、国産木材輸出を拡大しようといった取り組みも推進しております。
次に、木材の安定供給体制を確立するための基盤整備のお話です。
山の中では、隣地の境界がどこからどこまでかわかりづらい。隣地は誰のものかがわからない。つまり境界が不明確であることが大きな課題となっています。そこで、GISなど情報技術を活用してきちんとした地籍調査を進めて行こうと提案しています。
このように森林デジタル情報基盤を整備しつつ、境界確認や森林の団地化、山肌を傷めない最適な路網の整備などについて、それぞれのメンバー企業がそれぞれの研究テーマとして取り組み、前に進めているという状況です。
こちらは政策提言の3つめです。JAPICでは、「異種の道をつなぐネットワークづくり」というものに取り組んでおります。
「道」というものには、市町村道や国道といった公共の道の他に、農道もある。林道もある。電力会社の管理道もあって、NTTの電波塔の管理道もある。民間の方も私道を持っているのです。こうした民間の道と公共の道をつなげることで、最小のコストで最大のネットワークを構築しようと考えています。このネットワークはあるときは命の道にもなるし、森林整備やインフラ整備のためにも使える。こういうネットワークを構築しながら、森林整備を進めるのが良いのではないかと考えています。この件については、岐阜県の飛騨高山で「異種の道ネットワーク検討会」を立ち上げて、この地域をパイロットモデルとして具体的に話を進めているところです。
先程、沼田長官からもお話がありましたが、林業の機械化を推進するにあたっては、山の中に安価で壊れにくい路網を整備していく必要があります。そこで、鉄鋼メーカーさんにお願いして、従来の砂利の代わりに、雨が降れば固まるスラグを使った崩れにくい路網をより安く整備しております。また、セメント舗装についても、簡易舗装や生コン舗装、簡易転圧コンクリート舗装といった技術を利用して、今までよりも安価で崩れにくい道を開発してきております。
それから、「東北の森林資源を生かした復興住宅の建設」ということで、東北の方でも一生懸命活動しております。
具体的には、釜石市と大槌町、遠野市の2市1町で、森林を活かした復興住宅の建設を支援しております。その際、大事なことは、住宅は被災してしまいましたが、森林は健全であるということです。そこで、被災地の森林を伐ってきて、内陸の遠野で加工して釜石と大槌に復興住宅を建設しています。更に木材を加工する際は、製材は遠野の方の木工団地で加工しますが、合板は宮古の復旧した合板工場で加工しています。また、残った木くずは、新日鉄の釜石製鉄所に石炭火力発電用に買い取ってもらうという体制を構築し、すべてをお金に換えることによって、少しでも自立型の林業に近づけることを目標に取り組んでいます。
こちらは、現実に地域の方々がデザインした「スクラムかみへい住宅」です。本プロジェクトでは、まず30坪で1,000万円という安価タイプの住宅を既に実現しております。もう一つは、もう少し高級な長期優良住宅対応の物も検討しておりまして2種類の住宅を実現する予定です。
次は、九州経済連合会との連携についてです。
九州の木材産業につきましては、もはや県産材の利用を推進というレベルは脱却したと考えております。木材の商流は、九州一円で流れておりますので、「県産材の時代から『九州材』の時代へ」ということを掲げまして、現在、九州経済連合 会内の研究会でアクションプランを練っているところです。
また、九州はアジアに近いことから、輸出も視野に入れた検討を行っております。輸出の前段階として、九州の産業マップを作成したところ、九州材をカスケード利用して行く中で、特に合板については、まだまだ余力があるということが判ってまいりました。そこで、大きな工場をもう一つ増設することで、バランス良くビジネス化できるのではないかと考えています。実際に九州での木材フローはどうなっているかを調べましたところ、九州では自給率が61%に達することが判明しております。
東北経済連合会との連携につきましては、先程ご紹介した復興住宅の建設の他、東北全体で地域として木材をカスケード利用する取り組みを行っております。また、東北単位である程度規模をまとめ大規模化することによって、外材に対抗できる価格の国産材を安定的に供給する仕組みを構築することも重要となっております。このように利用と供給の視点から、今後東北の林業をどのように進めていくべきかを課題に、今後検討を進めて参りたいと考えております。そのため、今年の7月には「次世代林業東北サミット会議」を開きました。林野庁長官はじめ、たくさんの方に列席いただいて、キックオフの場とさせていただいたところです。
私共の委員会では、各企業の方々が熱意を持って活動しておられます。本日ご紹介しきれませんでしたが、こちらの「日本は森林国家です」の中に、たくさんの事例が書いてございます。ご関心のある方はこちらの書籍をご覧いただければと思います。
最後に「美しい森づくり全国推進会議」の皆様方に申し上げます。今後益々、国産材利用に向けてがんばって行きたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。
ご静聴ありがとうございました。