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『動き出した、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム』
〜産官学連携で拓く、地球温暖化防止・生物多様性保全に貢献する木づかい〜
平成24年12月13日(木) 14:00〜16:30 「東京ビックサイト」レセプションホールB
主催/美しい森林づくり全国推進会議、(公社)国土緑化推進機構、経団連自然保護協議会
後援/林野庁、(社)日本林業協会
開催趣旨
開催趣旨
2012年6月の「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」及び10月の「COP11(生物多様性条約第11回締約国会議)の開催等を契機として、「グリーンエコノミー」の創出や「自然資本」に配慮した企業活動への関心が世界的に高まりをみせています。とりわけ、2013年からはじまるポスト京都議定書の枠組みにおいても、木材製品のCO2貯蔵効果が評価されるとともに、本年9月に策定された「生物多様性国家戦略2012-2020」においては、持続可能な森林管理・利用に係る施策が幅広く位置付けられるなど、地球温暖化防止や生物多様性保全に貢献する森づくり・木づかいへの期待や関心が高まりつつあります。
このような中で、我が国では木材自給率50%に向けた「森林・林業再生プラン」や「公共建築物等木材利用促進法」に基づく各種施策の本格的な実施を背景として、公共施設や住宅等の建築・土木業だけでなく、家具、日用品等の製造業、さらには小売業、サービス業、商社など幅広い業種の企業等による新たなビジネスモデルの創出に向けた取組がはじまっています。そこで、多様な企業が参画して森や木を活かした「グリーンエコノミー」の創出等に向けた取組を先導する諸団体などが一堂に会して、最前線の取組事例に学ぶとともに、多様な分野の連携・協働による新たな商品開発や消費対策の展望を議論するシンポジウムを開催します。
プログラム
動き出した、森と木を活かす「グリーンエコノミー」シンポジウム
1.開会・挨拶
出井 伸之 (美しい森林づくり全国推進会議 代表)
沼田 正俊 (林野庁長官)
2.基調講演
動き出した、森と木を活かすものづくり・いえづくり 
〜最前線の事例にみる、新たな木づかいの商品開発〜

赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
3.概要報告1
国産材自給率50%に向けた、次世代林業システム政策提言
〜東北経済連合会・九州経済連合会との連携の広がり

米田 雅子 ((社)日本プロジェクト産業協議会 森林再生事業化委員会 委員長、
慶応義塾大学 特任教授)
4.概要報告2
木材利用システム研究会の取組〜木材需要拡大に向けて
井上 雅文 (東京大学アジア生物資源環境研究センター)
5.概要報告3
生物多様性民間参画パートナーシツブ会員アンケートに見る、森づくり・木づかいの動向
古田 尚也 (IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー)
6.概要報告4
森林資源活用の可能性と林野庁施策の動向
末松 広行 (林野庁林政部長)
7.パネルディスカッション
森と木を活かす「グリーンエコノミー」の実現に向けて
〜産官学協働で拓く、木づかいを促す商流戦略〜

<モデレータ>
赤池 学 (ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
<パネリスト>
米田 雅子、井上 雅文、古田 尚也、末松 広行の各報告者
8. 講評
 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
■ 開会挨拶
 出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)
出井 伸之(美しい森林づくり全国推進会議 代表)  私はソニーの社長、会長を長年つとめ、その折は経済産業省や総務省と関係しておりました。ソニーを卒業してからは全然違った経験をしてみようということで、林野庁のお手伝いをさせていただいて、かれこれ5、6年になります。その間、植樹祭に何回も出させていただいたり、天皇陛下や皇太子殿下にお越しいただいて行うセレモニーなどを通じて、わが国は森林づくりについての素晴らしい伝統がある、他に類を見ない国であるとつくづく考えてまいりました。
こうしたイベントを積極的に林野庁の皆様に企画運営していただいていておりますが、先日長野県のCWニコルさんの森を見に行きましたところ、国有林と私有林がどのように違うか実感いたしました。CWニコルさんが一生懸命手入れをしたところはこんなに良くて、広い。一方、国有林がただただ広い、と言っては悪いと思うのですけど、だいぶ違うのだということを理解いたしました。このようなイベントなどを通じて、自然に親しむということが、だんだん世の中に普及してきて、考え方が変わってきたなと思っているところです。
美しい森林をつくる推進活動は、経団連さんにも共催をいただいて進めてきた活動です。2007年にスタートし、日本の森の4割を占める人工林について、その間伐を行うことを通じて、見た目に美しいだけでなく、温暖化防止にもすぐれた森を造ることを目指した活動です。半年ごとにシンポジウムとか、いろいろなイベントがありますし、フォレストサポーターズという制度を通じて登録を呼びかけたところ、結果的には登録者が4万件にまで増えてきております。特に、企業の方のサポートが1,000社以上あり、連携の輪が非常に広がってきていることで、5、6年前と比べて全体に関心が非常に高まってきていると感じています。2011年の2月には、経団連の自然保護協議会が進める生物多様性民間参画パートナーシップなどとの共同宣言を行いまして、本日のシンポジウムの共催につながりました。
私は、こうしたイベントに出席するたびに、木は植えてばかりではなく使っていかなくてはならないと、使っていくにあたっては、日本の企業で、すぐれた生産技術と流通技術を持つ、第二次産業の大企業との協力が必要であるとつくづく感じてまいりました。本日のように、木材の消費者側に近い企業の皆様の集まりで、木材の利活用についてのお話させていただくことは、これからの森の活動においても一番重要な問題であると思います。
日本においては新しいイノベーションの推進が急務です。大量にものを作っているだけでは、中国などの新興国に勝てません。ユニークなものを生み出していく「イノベーション」が必要なわけですが、考えてみればイノベーションはその必要性とこれを実現するための技術という2つの要素によってはじめて成立すると思うのです。
本日は、日本における木の使い方について何が求められているのか、そして、何がどうやって新しい価値を生むのかという、色々なお話が聞けるということで、私も大変期待して参りました。皆様も色々なヒントをつかんで帰っていただきたいと思います。
本日はお越しいただきまして、本当にありがとうございました。

 沼田 正俊(林野庁 長官)
沼田 正俊(林野庁 長官)  本日は、「動き出した森と木を活かすグリーンエコノミーシンポジウム」がこのように盛大に開催されますことを、心からお慶び申し上げます。また、ご参会の皆様方には日頃から森林行政の推進にあたり、大変なご支援ご協力をいただいておりますことをこの場をお借りして改めて御礼申し上げます。
ただいま出井代表からもご挨拶がありましたが、日本は非常に豊かな森林国であり、これまで先人がこうした森を築き上げ、大切にして参りました。私どもは、このように受け継いできた森林を、将来の世代にきちんと繋いでいくことが極めて大事なことだと思っております。さらに、日本の森林を中心とした経済が持続的に発展していくこと、そして、タイトルにもありますように地球温暖化を防止することや、生物多様性の保全などに貢献していくためにも、再生産可能な森林木材資 源を最大限に活用していくことは非常に大切だと考えております。
林野庁では、10年後の木材自給率50%を目標に努力しております。例えば、一つの森における各作業を集約化する、作業に必要な安価で簡易な道を作る、それに必要な人材の育成を行う、そして地域で生産される木材を色々使う。このような取り組みを推進しております。
このうち、特に木材の利用に関しては、一昨年、公共建築物木材利用促進法を制定していただきました。この法令に基づき、すべての省庁・都道府県において、低層の公共建築物は原則として、木造化するという方針が策定されており、現在800弱の市町村でも既に方針を策定いただいた状況でございます。
このように、木材の利用に関して私ども行政も努力を続けているところでございますが、一方、行政の力だけではなかなか難しい面もございます。行政と民間とが一体となり、住宅やオフィスなどの建築物の木造化、様々な木製品の開発、内装材としての木材の利用、こうした木材の利用法を質的にも量的にも増やしていかなければいけないと考えております。
今年の7月ですが、再生可能エネルギーの買い取り制度が導入されました。私どもとしましても、木質バイオマスのエネルギー利用を切り口に、皆様に色々と努力いただきたいと思っており、このような「木づかい」が、日本の環境や地域の経済を支え、発展させていく力になると考えているところです。
今日は産業界や学会の第一線でご活躍されている方々と、私ども行政の関係者が意見交換をさせていただく場をいただいておりますので、様々な目標の達成に向けた豊富な考え方やヒントがでてくるのではないかと期待しているところでございます。
最後になりましたが、ご参会の皆様方の益々のご発展を祈りつつ、木材をぜひ利用していただきたいこと、そして森をよくしていく活動にご協力いただきたいということを改めてお願い申し上げまして、ご挨拶に代えさえていただきます。本日はよろしくお願いいたします。

 
■ 基調講演
 『動き出した、森と木を活かすものづくり・いえづくり 
 〜最前線の事例にみる、新たな木づかいの商品開発〜
 赤池 学(ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)
赤池 学(ユニバーサルデザイン総合研究所 所長)  私は、ユニバーサルデザイン・サスティナブルデザインに基づく商品や地域開発を手がけているインダストリアルデザイナーです。今日は私共の研究所が開発に関わりました、空間デザインあるいは商品のデザインを紹介しつつ、各事例における「木づかい」の可能性と課題について、お話をしたいと思っております。
 まず最初に「木をつかう」といったグリーンエコノミーについて、世の中の情勢がどのように動いていくのか、という大きな話からお話したいと思います。
  私共は、20世紀までの社会は、効率化的な仕組みを自動配信してゆくことを志向した「自動化社会」であったと考えています。自動化社会では利便な社会が形成された一方、環境破壊をはじめ負の遺産をたくさんため込んでしまった。そこで、日本を含めた先進国は、これらの課題を解決するための新しい社会モデルの形成に向けて動いてきたと捉えています。
  これが、例えばエネルギーで云う所では、エネルギーベストミックスと呼ばれる第2ステップの「最適化社会」です。ところが最適化社会には、部分最適に陥りやすいという弱点があります。少し前の例を挙げますと、低炭素社会作りを目指しただけで、あたかも企業の環境対応は完了したかのような錯覚にとらわれているアクションが少なくなかったと思います。更には東日本大震災を契機として、科学的合理的な根拠を持つと喧伝されてきたエネルギーの構成比率は、実は極めていい加減なものだったと気づかされ、最適化社会は幻想であると直感された方も多いのではないかと思っています。
 このような気付きの背景には、YouTubeやソーシャルメディアといった情報技術の成熟が考えられます。問題意識を持って情報を収集すると、世界中から、より確からしい情報をリアルタイムに得ることができる。この情報をベースとして、これからは、個人も企業も自治体も、自ら計画し、自ら行動をするというアクションを起こすようになるはずです。
 例えば、北九州市では、製鉄工場が副生している水素を活用し、水素ステーションを作って、水素をベースとする燃料電池に対応した住宅基盤整備を進めていこうと計画しています。このように極めて自律的なアクションが起きてきているのです。阪神大震災以降、我国のフロントランナーは、自律化社会にむけて動き出し始めた、と私共の研究所は捉えているのです。
 更に、この自律化社会のフロントランナーたちは、自ら計画して行動する過程において、ローコストで導入できる生態系サービスや自然のメカニズムを利用してゆくことで、より持続可能な町づくり・物づくりができることに気づいて、これを推進して行くはずです。つまり、自律化社会のフロントランナーは、「自然化社会」と呼べるような方向に向かって走り始める。私たちは、この「自律化社会」から「自然化社会」への移行を繋ぐのがグリーンエコノミーだと捉えているのです。
 次にご覧頂いているのは、2枚の対の写真の一部です。ご覧いただいて右と左の都市と右と左の商店街、それぞれどちらがチャーミングかということですね。あえてここで手を上げていただく必要すらないと思います。いままで各所の講演でお話した際も、左がいいとお考えの方は一人もいらっしゃいませんでした。
 そこで、実際に右側のような都市が必要だと言うのであれば、やはりグリーンエコノミーを考えなければいけないわけです。左の写真のような、よく見かける商店街を右の写真のように変えていく、そのためには新しい都市開発の発想を変えなければいけません。右の商店街の写真を見ていただいて想像していただきたいのですが、例えば車で言えば、たぶんここに従来型のセダンの車とか、スポーツユーティリティービークルは入れない。こういう町を望むならば、こうした町にふさわしいコンパクトモビリティーをどうやって実現すれば良いかを考える。こういう発想が求められてくるのがグリーンエコノミーだと思っています。
 さて、ここからは、私共が関わった木づかいの事例について、いくつかお話をしたいと思います。2008年に洞爺湖でサミットが開催された際、経済産業省から、日本の先端的な環境技術を集積したゼロエミッションハウスをデザイン・プロデュースしてほしいとお話がありました。そこで積水ハウスさんと一緒に形にしたのがこちらの家です。
 ソーラー発電、住宅用蓄電池、燃料電池、その他色々な環境技術を導入したゼロエミッションハウスなのですが、その中で一番見ていただきたいのが、こちらの和室です。
  天井は当時試作段階にあった有機ELの照明を採用しました。木材を多用するとともに、壁も土壁にしました。光を上手く捕えますと、土の壁は蓄熱性がありますし、調湿性にも優れているのです。次に注目していただきたいのは畳です。この畳は藁床の畳ではなくて、床の部分に檜の製材時に廃材として出るチップを利用したヒノキの健康畳を使っています。この畳からは、ヒノキのいい香りもしますし、天然の防虫抗菌効果を持っていますので、ダニ・カビが発生せず、更に耐久性も藁床の畳に比べて高いという優れものの畳です。木質資源のこうしたさりげない使い方、デザインの発想というのは、例えばシックハウス等の課題に悩んでおられる方など様々な皆さんの心に響き、間違いなくキャッチアップされるだろうと思っています。
  次に、ゼロエミッションハウスで使用した木の部分ですが、こちらはすべて、蜂蜜を絞った後にでる「無駄巣」を原料とする蜜ロウワックで仕上げました。蜜ロウワックスは、日本の山間地で昔から行われてきた日本ミツバチが供給源です。生態系の保全とあわせて、こうした古来の知恵を復活させようという動きが長野県で広がり始めています。
 ゼロエミッションハウスのお庭の部分には、エクステリアとして、接ぎ木で作ったシンボルツリーや、接ぎ木で作った木のベンチを意図的に配置しました。接ぎ木のように既知の技術でも、デザインが寄り添うことによって、例えば春には桜の花が咲く木のベンチも作っていけるはずです。更には、それぞれの土地の山々で見られる樹種を都市基盤に利用した、新しいタイプの「生きている」都市の構築も十分に実現可能だと思っています。
 こちらは、2010年に横浜でAPECが開催されたときの写真です。クールジャパン製品のプレゼンテーションを目的とした、JAPAN EXPERIENCEというゾーンの空間デザインを私共が行いました。
 こちらでご覧頂きたいのが、ブースのフロア材と展示材です。実はこちらは、私共の研究所で開発したFOREST PARQUETという建材で、間伐材を集積して小口側で切ってフロア材にしたものです。
 間伐材を空間に配置する場合、木材をそのまま使うと、僕たちデザイナーや商業施設のお客様の目には、木目が「うるさく」感じられることも多いのです。そこで、「小口側に切ってみたらストライプのデザインになるのではないか」「もしかすると強度も上がるかもしれない」と考えて調べてみたところ、実際にデザイン性に優れた強度の強いフロアー材が仕上がりました。
 こちらのFOREST PARQUETはその後、スターバックスやイオンモールからも導入検討のお問い合わせをいただいています。FOREST PARQUETに限らず、国産木材を使った色々なショールームを形にする企業も、ここ数年非常に増えています。
   こちらの写真は、先ほどのゼロエミッションハウスをデザイン・プロデュースした後に、リクシル住宅研究所から「国のゼロエミッションハウスを超えるエコハウスを提案ほしい」と依頼をいただいて、形にしたコンセプトホームです。
 写真では見えないのですが、屋根の上にはソーラーパネルが乗っています。不安定なソーラー電力を、今後普及が期待されるEV車のバッテリーに蓄電して、住宅が自動車から電気をもらって暮らすというコンセプトを初めて形にしました。このコンセプトは、ご存知の通り、大手住宅メーカーと自動車メーカーの連携による提案として、スマートハウスの一つのスタンダードになっています。
 この住宅の中でも、色々な「木づかい」のデザインを導入しました。写真中のテーブルや和室の床柱には、高野山金剛峯寺の杉、檜、槙の木を使用しています。実は、いわゆる高野山の木材、これをブランディングしてほしいと高野山から依頼がありまして、「高野霊木」というネーミングをして商流形成のお手伝いをしてきました。このコンセプトホームのさまざまな木材部分に「高野霊木」を使用して訴求したところ、こちらの住宅は2年間で500棟位売れました。高野山傘下のお寺さん、檀家さんはたくさんいらっしゃるわけですが、霊木のデザイン開発を行ったことにより新たな商流形成が起こったわけです。その後、「高野霊木」の成功を受けて、山梨の身延山や山形県の月山からも、同じように「身延霊木」や「月山霊木」をブランディングしてほしいと依頼をいただいています。
 このように、リアルな商流を意識した形で新しい建材のプロデュースを行っていくと、付加価値の高い様々な木材ビジネスを構築できるはずです。
 このコンセプトホームは、庭をシステム化したということでも、業界で非常に話題になりました。庭を家庭菜園にすれば子供達と一緒に農業も楽しめますし、暖かい季節になれば鳥や虫も集まってくる。庭というのは、チャーミングな住宅における感性装置ですが、京都の町屋が坪庭をデザインしたことでわかるように、光と涼やかな風を取り込むための環境装置でもあるのです。
いままで、住宅メーカーには、庭を環境装置としてとらえる視点が欠けていましたが、コンセプトホームでは、コンピューターでシミュレーションして、適正な位置と大きさに4つの庭を配置しました。
  写真のような、菜園や菜園と連携したウッドデッキなどが組み込まれています。更に、この4つあるシステム化した坪庭に常滑焼の露天風呂を入れました。これだけで130万円もしますので、リクシル住宅研究所の社長は難色を示しましたが、実際には先ほど申し上げましたとおり非常に売れました。ご購入いただいた方のアンケートを見ましても、露天風呂を見たときに迷っていた購入を決断したと書いてくださるお客様がたくさんいらっしゃいました。
考えていただきたいのは、ウッドデッキや露天風呂の周りの木材です。ご存じのように、耐水性とか耐候性に優れたアウトドア用の木製品がわが国にはまだまだないのです。地域がこういう要素を満たす木製品に注目し、ニーズに目覚めた住宅メーカーと連携しきちんと木製品を開発していけば、そこには間違いなく新しい商流が起きるはずだと思います。
 これは積水ハウスさんの菜園マンションですが、このご時世にもかかわらずほとんど即日完売の状況です。こうしたマンションデベロッパーにおいても、木を使うニーズが台頭してきているのです。
  これは昨年の12月に行われた東京モーターショーの展示ブースです。リクシルと一緒にブースのデザインを行いました。手前にはエクステリア、ブースの外にはインテリアとしての住宅があるという設定ですが、来場された方に見ていただいたのは、インテリアでもエクステリアでもない「ミッドテリア」でした。ミッドテリア、すなわち中間領域は、たぶんこれからの家造りにおける新しい間取りの空間、あるいは近隣の人々・家族が集う、集いの場になっていくはずだと考えています。
 こういう中間領域のためのルーバーに木製品使おうとしたとき、使いやすい木材が、今のところまだない。こういう素材分野の研究開発やデザイン開発などに資源を投入すれば、新しいビジネスモデルが成立するはずです。
 写真の中には、実は馬がいます。都市に緑は増えたけれども、動物はまだ少ないぞというアンチテーゼとして、モーターショー史上初めて馬を飼いました。手前は木製の電気自動車です。もしもこの自動車で事故をおこしたら間違いなく火を噴きます。でも、先ほど見ていただいた理想の商店街の中で利用する場合ならどうでしょうか。最近、国土交通省でもゾーン30といった低速の交通システムの実証実験を始めましたが、発想さえ変えれば、地域の木材を地域の町工場が作る移動手段用の素材に使っていくことも十分考えられるのではないかというメッセージです。
 先ほど、モーターショー史上初めて馬を買った話をしましたが、本当に馬付き住宅の販売をはじめた自治体もでてきました。
 遠野市の例ですが、地域材を使った戸建て住宅を1棟買うと、もれなく1頭乗用馬がついています、というビジネルモデルを本当に展開しています。遠野のエリアでは、間伐の際に、南部の地元の馬を使って運搬してきました。遠野市は、馬付き住宅の分譲にあわせて「うちの間伐材は馬で引き下ろしているのだよ」と認知してもらう宣伝効果を狙っています。このように、馬搬認証木材のブランド化といった新しい発想のビジネルモデルの構築を狙う動きまで出始めています。
 これは、少し前に手がけた富士通FIPの横浜にあるデータセンターについての記事です。富士通FIPでは丹沢に「富士通FIPの森」を持っています。データセンターと森とは真逆の存在に感じられると思いますが、クラウド&グリーンとで富士通FIPは、木材や植栽に富むデータセンターを作られました。記事中に建物と芝生の写真が見えますが、富士通FIPでは第2期の工事を計画中です。データセンターはご存じのようにたくさん熱のを排出しますが、第2期のデータセンターにはいわゆる植物工場を併設して、丹沢の森の色々な樹種のみ実生を植物工場で育てていこうという計画が構想されています。
 さて、後ほどプレゼンされる林野庁の末松さんがバイオマス・ニッポン本総合戦略を策定されましたが、正直に申し上げて大規模プラント型のバイオマスのシステムは残念ながら、なかなか定着に至っておりません。
   一方で、今まで見てきましたように、間伐材を活用したデザイン建材や、木粉やペレットの利用などのビジネスは現在でもリアルに動いています。
 例えば、木質のバイオマスから一挙に水素を作ってしまおうというプロジェクトが進展しつつあります。
  更に、バイオマス活動の先端的事例として、東芝が行った実証実験を紹介します。これは、間伐材を含めた木質のバイオマスから、ナノカーボンを作るプロジェクトです。私はこのプロジェクトの評価委員を務めていますが、木材から、かなり質の良いナノグラフェンを作れることが確認されはじめています。
 また、理化学研究所とトヨタ中央研究所では、シロアリ由来の酵素で、木材からバイオ燃料を作る技術の実用化に向けた研究を始めています。
 さて、森林といいますと木材だけではなく森林が育む宝がたくさんあります。例えば、家蚕から抽出したシルクは紫外線A波を遮断できますが、山に棲む山繭蛾のような森林由来の蚕蛾から抽出したものは、紫外線のA波もB波も遮断します。そこで大手の化粧品メーカーが山林由来のシルクを用いたシミ予防の化粧品の商品化に着手し、大きなビジネスになり始めています。
 あるいは、今お話した山繭蛾は、サナギになる時に休眠ホルモンを出します。岩手大学が、この休眠ホルモンでがん細胞を眠らせることができるのではないかと考えて実験したところ、実際に効果があることがわかりました。そこで山繭蛾由来の休眠ホルモンから制がん剤を製薬化しようと、多くの企業がプロジェクトに参画して、実用化に向けた動きが始まっています。
  そしてもう一つ、山の恵みの最たる物と言えば農林水産物です。こういう山を中心に循環を実現したケース、例えば国産の玄米で鶏を育てて卵をとる、こういうビジネスモデルがどんどん動き始めています。もちろん鶏だけではなくて、牛や豚の飼育の現場でも山とつながる取り組みが生まれています。地域の生産者と山がつながる。エコフィードに基づく畜産は、特に震災被災地における生業のデザインの面からも、ビジネスとしても、非常な伸び代があると思っています。
 日本各地の多くの国立大学では、地域の生産物の機能研究に取り組んでいます。例えば弘前大学の場合ですが、青森県の生産量No.1生産物であるナガイモの機能成分を調べたところ、インフルエンザを無害化する、ディオスコリンと呼ばれる糖タンパクが多く含まれることがわかりました。こうした知的財産に企業がつながってゆくけば、地方においても付加価値の高いビジネスを生み出すことができるはずです。
 同様に、間引かれた柑橘類を調べたところ、その未熟な果実の皮にアトピー性皮膚炎のかゆみを消炎するヘスペリジンが豊富に含まれることがわかりました。現在ナチュラルローソンで売られている「青みかん石けん」のような形で商品化され、地域の企業にも大きな収益をもたらしています。
 さらに、山は水産物も涵養してくれます。これは三重県の尾鷲の例ですが、当地にはカツオをまるのまま一匹塩蔵した塩辛の文化があります。現在、食品開発のお手伝いをしていますが、このカツオの塩辛を尾鷲の山で採取した木の箱に入れて高級感を演出して販売すれば、おそらく一匹4000円位でも売れるでしょう。日本の魚付林資源やその利用文化も、ビジネスとして十分成立すると確信しています。
 先ほど、バイオマスについて少し触れましたが、バイオマスをビジネスモデルとして成立させるためには、カスケードの上位から順番に収益を得られるように構築していくことが必要です。
その後、そうした成果物をいろいろな地域の有機農業やリサイクル農園、クラインガルテンなどに展開すれば、持続可能な地域のバイオマスビジネスモデルが定着するはずです。
 私はこれまでも、農商工連携や、第六次産業の開発に数多く関わってきました。その際、必ずお話するのが「蕎麦の法則」です。蕎麦は10アールの耕作地でだいたい80キロくらい採れて、蕎麦の実が15,000円くらいで売れます。一方、お米の場合は、努力すれば10アールの農地から500キロくらい収穫できて、10万円位で売れます。そこで、単純に栽培することだけを考えると、米を選択してしまうわけです。ところが、この地域にちょっとした製粉加工機が入って蕎麦粉にするようになると、15,000円の蕎麦の実が75,000円で売れるようになります。更に地域でフルタイムの職を持たない「母ちゃん」「ばあちゃん」を組織化して、手打ち蕎麦をパックにした宅配事業を行うと、15,000円が18万円に化けます。もしその蕎麦が話題になって地域で手打ち蕎麦屋を経営するようになれば、15,000円の蕎麦の実が48万円も稼ぎ出すのです。もしも、こういうビジネスモデルを構築することができれば、蕎麦の栽培をする生産者の蕎麦の実を、より高く買ってあげられるようになるはずです。
 これからの「木づかい」も全く同じです。ペレットの加工にも同じ法則があるはずなのです。きちんとキャッシュフローを引いた上で地域の農商工連携をデザインすることが必要だと思っています。
   最後になりますが、こういう魅力的な「木づかい」を実現するための商品開発、山の資産を利用した新しい発想の魅力的な農作物の栽培、これらを推進するためにはお金が要ります。お金を集める新しい仕組みについても、これから「山」側が考えなければいけない。  その答えとなり得るのが、「ソーシャルファイナンス」や「マイクロファンデーション」です。マネーゲームのためにお金を集めるのではありません。「地域の特性を生かした魅力的なデザイン開発に取り組んでいます。だから少額でも良いから個人株主としてお金を出して下さい」とお願いする投資構造、これがソーシャルファイナンスです。
 酒造りもそうです。最近では陸前高田のおいしいお醤油や漬け物をつくっている八木沢商店さんの例があります。八木沢商店さんは、震災の際に津波で流されてしまいましたが、電通と一緒にソーシャルファイナンスの仕組みを組んで、2億円を個人株主から集めて復興に成功したのです。
   これからは、木の使い方、その技術開発やデザイン開発の重要さもさることながら、こうした新しい発想の商流を作り出していく、あるいはお金の流れをデザインするといったようなことにまで問題意識を持って、地域が生業開発に取り組む必要があるのではないかと考えております。
 本日はご静聴ありがとうございました。



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